公平な立場で公平な判断をすることがマネジメントの使命だ。リスクばかり見て判断しているとしたら、それは経営者のエゴだ。組織に公平な環境がつくれれば、世間に伝わるものができる。そんな企業は潰れない。
食品が世間を騒がせ、マスコミが一様に攻撃してきた。起こしたことは明らかに間違っている。しかしどうしても「中国だけが悪い」という気分にはなれない。というのは、どうして中国でこんな問題が起きたのか、誰も相手の懐に入って考えようとしないからだ。「悪い」と批判するのは簡単だが、それは二階から見下ろしてジャッジしているだけのこと。地下一階から見なければ、物事の深層は理解できないと思う。
“国産に追い風”は不公平
そもそも中国野菜を呼び込んだのは我々日本の農業界ではないのか。顧客やマーケットを省みず産地間競争に明け暮れた結果、それでは国産品で需要を満たせないからと流通が足りない分を中国に求めた。中国の農家や業者もそれに応えようとして必死で頑張ったが、なんせ短期間で「こんな品質と量で作ってくれ」というような難しい注文だ。そこからひずみが生じた。リスクが10あるとして日本ではそれを1まで落とせたとしても、中国はリスクを5までしか回避できていない。
しかも農家や工場作業員の年収が数万円ほどの世界だ。人々の不平不満が充満し、農業や技術も発展途上の中国が、日本の過去と比べて今どの段階にあるのか、それを斟酌する必要があるだろう。別に最初から加害者だったわけではないし、「いい商品を作ろう」という思いは中国も日本も一緒に違いない。こうした事情を無視して、日本の農業界が「国産品に追い風が吹いている」と喜ぶのは、どうにも不公平な気がする。
(以下つづく)
木内博一(きうち ひろかず)
1967年千葉県生まれ。農業者大学校卒業後、90年に就農。96年事業会社㈲和郷を、98年生産組合㈱和郷園を設立。生産・流通事業のほか、リサイクル事業や冷凍工場、カット・パッキングセンター、直営店舗の展開をすすめる。05年海外事業部を立ち上げ、タイでマンゴー、バナナの生産開始。07年日本から香港への輸出事業スタート。現在、ターゲット国を拡大準備中。本連載では、起業わずか10年でグループ売上約50億円の農系企業を築き上げた木内の「和のマネジメントと郷の精神」。本連載ではその“事業ビジョンの本質”を解き明かす。