ファイナンシャル・プランナー 藤田秀一郎
【プロフィール】千葉エフピー協会組合代表理事。事業オーナー、医師、未亡人、退職者などに実践的な経理・財務・法務・労務コンサルティングを行う。著書に「FPの知恵袋」(BKC)他がある。
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第4回 確定申告を有利に行うテクニック(その2)
「確定申告を有利に行うテクニック」というタイトルでは2回目となりますが、このシリーズは個人事業者としての農業経営者に焦点を当てており、あまり語られていない所得税、住民税、国民健康保険税、事業税(農業収入を除く)の4種類の比較から、どのような申告形態が望ましいのか分析していこうとするものです。具体的には表1にあるように各税ごとに課税対象に至る計算式は相違しています。ポイントの一つは専従者給与です。また表2が示すのは所得税と住民税の控除額が違っていることで、有利な税計算のためには知っておいていただきたいポイントです。
表1
事業収入 |
− |
事業経費 |
− |
専従者給与 |
− |
所得控除 |
= |
所得税の計算対象
|
事業収入 |
− |
事業経費 |
− |
専従者給与 |
− |
所得控除 |
= |
住民税の計算対象
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事業収入 |
− |
事業経費 |
− |
専従者給与 |
= |
事業税の計算対象(農業は非課税)
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事業収入 |
− |
事業経費 |
= |
国民健康保険の課税対象
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表2
所得控除の種類
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所得税の所得控除額 |
住民税の所得控除額 |
医療費控除額 |
(1) {その年(H14年中)に支払った医療費の額
- 保険金等補填額}
(2) 10万円と総所得金額 X 5% といずれか少ない額
(3) (1) - (2) = (最高200万円を限度)
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算式同左 |
社会保険料控除額 |
H14年中に支払った社会保険料の合計額 |
H14年中に支払った社会保険料の合計額 |
生命保険料控除額 |
(1) 一般の生命保険料
a. 25,000円まで →支払保険料の全額
b. 25,000超 50,000円まで → 支払保険料× 1 ÷ 2 + 12,500円
c. 50,000円超 100,000円まで → 支払保険料 × 1 ÷ 4 + 25,000円
d. 100,000円超 → 50,000円
(2) 個人年金保険料
上記(1) (a) から (d) の区分に応じて計算した金額
(3) (1) + (2) = (合計額最高 100,000円まで) |
(1)
一般の生命保険料
a. 15,000円まで → 支払保険料の全額
b. 15,000超 40,000円まで → 支払保険料× 1 ÷ 2 + 7,500円
c. 40,000円超 70,000円まで → 支払保険料 × 1 ÷ 4 + 17,500円
d. 70,000円超 → 35,000円
(2) 個人年金保険料
上記(1) (a) から (d) の区分に応じて計算した金額
(3) (1) + (2) = (合計額最高 70,000円まで) |
損害保険料控除額 |
(1) 短期損害保険料
a. 2,000円まで → 支払保険料の全額
b. 2,000超 → 支払保険料 ×1 ÷ 2 + 1,000円
(最高3,000円)
(2) 長期損害保険料
a. 10,000円まで → 支払保険料の全額
b. 10,000円超 → 支払保険料 × 1 ÷ 2 + 5,000円
(最高15,000円)
(3) (1) + (2) = (合計額最高 15,000円まで) |
(1)
短期損害保険料
a. 1,000円まで → 支払保険料の全額
b. 1,000超 → 支払保険料 × 1 ÷ 2 + 500円
(最高2,000円)
(2) 長期損害保険料
a. 5,000円まで → 支払保険料の全額
b. 5,000円超 → 支払保険料 × 1 ÷ 2 + 2,500円
(最高10,000円)
(3) (1) + (2) = (合計額最高 10,000円まで) |
障害者控除額 |
障害者1人につき → 270,000円
特別障害者1人につき → 400,000円 |
障害者1人につき
→ 260,000円
特別障害者1人につき → 300,000円 |
老年者控除額 |
本人年令65歳以上の人
→ 500,000円 |
本人年令65歳以上の人
→ 480,000円 |
寡婦・寡夫控除 |
本人が寡婦又は寡夫
→ 270,000円
特定の寡婦 → 350,000円 |
本人が寡婦又は寡夫
→ 260,000円
特定の寡婦 → 300,000円 |
勤労学生控除額 |
本人が勤労学生
→ 270,000円 |
本人が勤労学生
→ 260,000円 |
配偶者控除額 |
一般
の配偶者 → 380,000円
同上の同居特別障害者→730,000円
年令70歳以上の配偶者 → 480,000円
同上の同居特別障害者 → 830,000円 |
一般
の配偶者 → 330,000円
同上の同居特別障害者 → 560,000円
年令70歳以上の配偶者 → 380,000円
同上の同居特別障害者 → 610,000円 |
扶養控除額 |
一般
の扶養親族 → 380,000円
同上の同居特別障害者 → 730,000円
特定扶養親族 → 630,000円
同上の同居特別障害者 → 980,000円
年令70歳以上の扶養親族 → 480,000円
同上の同居特別障害者 → 830,000円
年令70歳以上の同居老親等 → 580,000円
同上の同居特別障害者 → 930,000円 |
一般
の扶養親族 → 330,000円
同上の同居特別障害者 → 560,000円
特定扶養親族 → 450,000円
同上の同居特別障害者 → 680,000円
年令70歳以上の扶養親族 → 380,000円
同上の同居特別障害者 → 610,000円
年令70歳以上の同居老親等 → 450,000円
同上の同居特別障害者 → 680,000円 |
基礎控除額 |
所得者本人
→ 380,000円 |
所得者本人
→ 330,000円 |
今回は次号以降で分析していく事業経費の計上方法や青色申告、白色申告、法人なり等の有利不利の比較のための予備知識として、所得税、住民税、事業税、健康保険税の仕組みについて説明します。
「人口5万人以上50万人未満の市」に住むAさんの場合を例に考えていきます。
家族構成は、Aさんと妻(専従者給与0円)、16歳の長男(高校生)、14歳の長女(中学生)の4人、事業収入は2000万円、社会保険料(国民健康保険、国民年金)が35万円、生命保険料が5万5千円とします。計算手順は、下記「A」から「E」までの手順により課税所得金額を算出し、その額を元にして所得税、住民税を計算するものです。
では、順に計算していきましょう。(注)定率減税は考慮しません。
A.事業収入金額 15,000,000円
B.必要経費 9,450,000円
必要経費とすることができるものは次に掲げるようなものなどがあります。
- 売上原価
- 給与、賃金
- 地代、家賃
- 水道光熱費
- その他事業収入を得るために必要なもの
*必要経費の特例
(イ)家内労働者等の必要経費の特例
家内労働者等の場合には、必要経費の額が65万円に満たない場合には、最高65万円まで必要経費の額とすることができる特例があります。
(ロ) 事業に専ら従事する親族がある場合の必要経費の特例
生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給料などは、原則として必要経費に算入されません。ただし、青色申告者と白色申告者とで、それぞれ次のように取り扱われます。
- 青色申告者の場合…あらかじめ税務署に届出書を提出し、専ら事業に従事することについて一定の要件を満たす場合には、必要経費に算入することができます。
- 白色申告者の場合…専ら事業に従事することについて一定の要件を満たす場合には、1人につき最高50万円(配偶者の場合には最高86万円)を必要経費とみなすというものです。
農業、漁業、製造業、卸・小売業、医者などの事業を個人で営む場合、その所得は事業所得となり、事業所得にかかる所得税を計算するには、まず事業所得から必要経費を差し引きます。必要経費は事業によって違いますが、要はその事業を行っていく上で直接必要なる経費のことです。
C.所得金額 5,550,000円
事業所得の金額は、次のように計算します。
総収入金額−必要経費=事業所得
D.所得控除額を計算する
|
所得税 |
住民税 |
1.社会保険料控除額 |
350,000円 |
350,000円 |
2.生命保険料控除額 |
50,000円 |
31,250円 |
3.配偶者控除額 |
380,000円 |
330,000円 |
4.配偶者特別控除額 |
380,000円 |
330,000円 |
5.扶養控除額 |
1,010,000円 |
780,000円 |
6.基礎控除額 |
380,000円 |
330,000円 |
1から6を合計します。
所得税の所得控除額 2,550,000円
住民税の所得控除額 2,151,250円
E.課税所得金額を計算する
所得税の課税所得金額
5,550,000円 ― 2,550,000円= 3,000,000円
住民税の課税所得金額
5,550,000 − 2,151,250 =3,398,000円(千円未満切り捨て)
この課税所得金額を元に、以下の所得税、住民税の算出を行います。
【所得税の算出】
3,000,000円×10%=300,000円
【住民税の算出】
個人の住民税は,前年の所得金額に応じて課税される「所得割」と,所得金額にかかわらず定額で課税される「均等割」,そして預貯金の利子等に課税される「利子割」とからなっています。
住民税の計算
所得割額 (前年の総所得金額等−所得控除額)×税率−税額控除額−定率減税
※平成11年度分以降個人住民税所得割額の15%相当額が定率減税(4万円を上限)
均等割額 県民税額1,000円+市町村民税額
※市町村民税額は,市町村の人口によって異なります。
人口50万人以上の市 3,000円
人口5万人以上50万人未満の市 2,500円
その他の市町村 2,000円
Aさんには、所得割と均等割の税を納めていただきます。
まず、所得税割額を算出します。
- 県民税 3,398,000円×2%=67,960円
- 市民税 (2,000,000円×3%)+(1,398,000円×8%)=171,840円
1と2は100円未満切り捨てになりますので、所得割税額は
67,900+171,800 = 239,700円 となります。
次に均等割です。
- 県民税 1,000円
- 市民税 2,500円(注)
(注)「人口5万人以上50万人未満の市」ですので、市民税は2,500円です。
所得割税額と均等割税額を足しますと、
1,000+2,500 = 3,500円(均等割税額)
239,700 + 3,500 = 243,200 円
となります。したがって、 Aさんの平成13年度の住民税額は243,200
円となります。
県民税と市町村民税は,税額計算のもととなる所得金額が同じため,納税者が便利なように,市町村が県民税もあわせて課税し,一括して納めてもらう制度になっています。県は,そのための取り扱い費用を市町村に支払い,県民税相当分を受け取ります。
ここでのポイントは専従者への給与支払いです。Aさんの場合は専従者給与を計上していませんので、配偶者控除が使えますが、専従者給与を支払った場合は配偶者控除が使用できません。しかしながら専従者給与は事業経費にはなりますから所得税で96万円の控除より多い金額を経費とすることも可能です。その場合奥様も所得税で100万円、住民税で103万円、国民健康保険税で130万円を超えるとそれぞれ自己負担が発生することになり、この配偶者への支払い金額が家庭としての手取額を左右する大きなポイントとなってきます。法人を設立し、法人から奥様へ96万円以内で給与を支払へば、奥様は納税が発生せず、Aさんは配偶者控除も使えることになり、納税が減り手取りが増えることもあります。
【事業税の算出】
次に事業税ですが、農業は対象となりませんが、表3に該当する場合は下記の計算式で納める額が決定します。
- 【事業総収入額】−【事業必要経費(事業専従者控除を含む)】=【事業所得金額】
- 【事業所得金額】−【その他の控除】−【事業主控除(290万円)】}×税率=税金
*課税の対象と税率は前年1年間の事業所得に対して課税されます。
- 申告と納税
毎年3月15日までに、事務所等の所在地の総務事務所・支庁へ申告しなければなりませんが、所得税の確定申告書、または住民税の申告書を提出した場合には必要ありません。
前述のAさんの例で物品販売業に該当すれば、
(5,550,000円−2,900,000円)×5%=130,000円となります。
表3
|
事業の種類 |
税率 |
第一種事業 |
物品販売業、不動産貸付業、製造業、運送業、請負業、飲食店業など |
5% |
第二種事業 |
畜産業、水産業、薪炭製造業(主として自家労力を用いて行うものを除く) |
4% |
第三種事業 |
医業、歯科医業、弁護士業、司法書士業、コンサルタント業、理容業、美容業など |
5% |
助産師業、あん摩・はり・きゅう等の事業など |
3% |
【国民健康保険税の算出】
最後は国民健康保険税についてです。
国民健康保険税は、加入者(被保険者)が病気やけがをしたときに保険を給付する医療分と、介護保険分からなります。ただし、介護保険分については、加入者が40歳以上65歳未満の場合に限り課税されます。国民健康保険税(医療分・介護分)は、所得割+資産税+均等割+平等割の合計額です。表4、表5はある市町村の例で料率や均等割等の数値は各市町村で違います。
表4
医療保険分 |
所得割 |
前年の国保加入者の所得−基礎控除33万 |
4.6% |
資産割 |
国保加入者の固定資産税額 |
40% |
均等割 |
国保加入者一人あたり |
18,000円 |
平等割 |
一世帯あたり |
22,500円 |
一世帯の課税限度額は年間53万円です |
表5
介護保険第2号被保険者(40才以上65才未満)のいる世帯は、下記の介護保険分が合算されます
介護保険分 |
所得割 |
前年の国保加入者の所得−基礎控除33万 |
0.9% |
均等割 |
国保加入者一人あたり |
5,800円 |
平等割 |
一世帯あたり |
3,600円 |
一世帯の課税限度額は年間7万円です |
今までの3つの税金との大きな違いは、専従者への給与は控除されないことです。次号はこれら4つの税金で専従者給与を支払う場合や支払わない場合及び支払額で家庭としての使用可能資金がどのように違うのか分析して参ります。
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