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ファイナンシャル・プランナー 藤田秀一郎
【プロフィール】千葉エフピー協会組合代表理事。事業オーナー、医師、未亡人、退職者などに実践的な経理・財務・法務・労務コンサルティングを行う。著書に「FPの知恵袋」(BKC)他がある。

藤田さん

第5回 確定申告を有利に行うテクニック(その3)

 前号では、所得税・住民税・事業税・健康保険税の4種類の税額の算出方法の違いを説明しました。今回は事業専従者給与をどう活用したら家庭としての収入が増えるのか、着目してみたいと思います。
 この分析の主なポイントは次のようになります。

  1. 配偶者控除(専従者給与を計上した場合、使用できません)
  2. 配偶者特別控除(いずれにせよこの控除はなくなりますので考慮しません)
  3. 専従者給与の発生により、配偶者にも所得税・住民税・健康保険税が発生する
  4. 健康保険税の計算では、専従者への給与は控除されない

 事業専従者給与の支払額で家庭としての使用可能資金がどのように違うのか分析していきます。
 すべてのケースに共通する前提条件は下記の通りです。

  1. 健康保険税の計算=所得割+均等割+平等割
    1.所得割 賦課標準額×4.6% = 円
    2.均等割 18,000円  × 人 = 円
    3.平等割 1世帯あたり  22,500円
  2. 家族構成はAさんと妻、16歳の長男(高校生)、14歳の長女(中学生)の4人
  3. 事業収入は農業のみ(事業税は発生しない)で2,000万円、前年度の社会保険料(国民健康保険、国民年金)が50万円(介護保険には該当しない)。生命保険料が10万円
(注1)定率減税は考慮しません (注2)住民税の均等割税額は考慮しません (注3)資産割(健康保険税)は考慮しません (注4)青色申告控除は考慮しません (注5)健康保険料等を物的控除と表現します (注6)扶養控除等を人的控除と表現します

【事業専従者給与の金額でどう変わるのか?】

 表1をご覧下さい。ケース1、2、3について説明していきます。

表1
   ケース1 ケース2 ケース3
事業主 配偶者 事業主 配偶者 事業主 配偶者
収入 20,000,000 1,000,000 20,000,000 3,000,000 20,000,000 4,500,000
経費 10,000,000     10,000,000        10,000,000       
専従者給与 1,000,000         3,000,000        4,500,000      
所得 9,000,000 1,000,000 7,000,000 3,000,000 5,500,000 4,500,000
給与所得控除 0 650,000 0 1,080,000 0 1,440,000
所得税 物的控除 550,000         550,000        550,000       
人的控除 1,390,000 380,000 1,390,000 380,000 1,390,000 380,000
課税所得 7,060,000 (30,000) 5,060,000 1,540,000 3,560,000 2,680,000
所得税 1,082,000 0 682,000 154,000 382,000 268,000
住民税 物的控除 535,000 0 535,000        535,000 0
人的控除 1,110,000 330,000 1,110,000 330,000 1,110,000 330,000
課税所得 7,355,000 20,000 5,355,000 1,590,000 3,855,000 2,730,000
住民税 646,150 0 435,500 79,500 285,500 173,000
健康保険税 基礎控除 330,000 330,000 330,000 330,000 330,000 330,000
課税所得 9,670,000 0 9,670,000 1,590,000 9,670,000 2,730,000
健康保険税 530,000 0 521,820 96,140 521,820 148,580
使用可能資金 6,741,850 1,000,000 5,360,680 2,670,360 4,310,680 3,910,420
家庭としての使用資金 7,740,850 8,031,040 8,221,100


 表1をご覧下さい。ケース1、2、3について説明していきます。
 これから分析していく数値は、家庭としての使用可能資金がどう変化するのか?ということです。この使用可能資金とは何かと言いますと、【事業収入‐事業経費‐所得税‐住民税‐健康保険税】(家庭としての収入なので事業専従者給与は収入にも経費にも計上しません)がその大筋です。従ってここでは所得税・住民税・健康保険税の計算を行うことになります。注意点はこれらの税金は翌年度納付することになりますので本年度の使用可能資金とは異なり、正確には翌年度の所得(事業収入‐事業経費)から差し引くことになります。あくまで目安としての分析を行っていきます。

【事業専従者給与の金額でどう変わるのか?】

 ケース1は専従者に年間100万円の給与を計上した場合です。まず事業主の所得税の計算ですが、事業主の所得税は
(課税所得‐物的控除‐人的控除)×所得税の税率‐控除額
となります。
 このうち物的控除は
社会保険料控除50万円+生命保険料控除5万円=合計55万円
 人的控除の内訳が
(事業主本人の基礎控除38万円)+(長男の扶養控除63万円<16歳以上23歳未満の特定扶養控除に該当>)+(長女の扶養控除38万円)=139万円
となります。従って課税所得は
(所得900万円)‐(物的控除55万円)‐(人的控除139万円)=706万円
となり、税額は
(課税所得668万円)×(税率20%)‐(控除額33万円<表2参照>)=108万2千円
と算出されます。

表2 (所得税の速算法)
課税所得金額 税率 控除額
〜330万円以下 10%
330万円超〜900万円以下 20% 33万円
900万円超〜1800万円以下 30% 123万円
1800万円超〜 37% 249万円

 次に住民税の所得割については、所得税の算式と同じ
(課税所得‐物的控除‐人的控除)×住民税の税率‐控除額
ですが、物的控除の生命保険料控除の額と人的控除の額及び税額(表3参照)が違ってきます。

表3
 課税所得金額 税率 控除額
〜200万円以下 5%
200万円超〜700万円以下 10% 10万円
700万円超〜 13% 31万円

 では具体的に計算していきましょう。
 物的控除は
(社会保険料控除50万円)+(生命保険料控除3万5千円)=53万5千円
 人的控除の内訳が
(事業主本人の基礎控除33万円)+(長男の扶養控除45万円<16歳以上23歳未満の特定扶養控除に該当>)+長女の扶養控除33万円=111万円
となります。従って課税所得は
(所得900万円)‐(物的控除53万5千円)‐(人的控除111万円)=735万5千円
となり、税額は
(課税所得735万5千円)×(税率13%)‐(控除額31万円<表2参照>)=64万6千150円
と算出されます。

 最後に健康保険税は、基礎控除が33万円で事業専従者給与は控除されませんので、次のような算式となります。
【(所得900万円)‐(基礎控除33万円)+(事業専従者給与100万円)】×(4.6%)+(1万8千円<本来は各市町村の均等割の金額>)×(4<1世帯の人数>)+(2万2千500円<本来は各市町村の均等割の金額>)=53万9千320円
となりますが、健康保険税の上限は53万円となっていますので、53万円となります。
 以上により事業主の使用可能資金は
(所得900万円)‐(所得税108万2千円)‐(住民税64万6千150円)‐(健康保険税53万円)=674万1千850円
という計算になります。

【配偶者の計算】

 変わって配偶者の所得税、住民税、健康保険税について計算していきます。
 配偶者の収入は給与に該当しますので、給与所得は
(給与収入100万円)‐(給与所得控除65万円<表4参照>)=(給与所得35万円)
となります。

表4
給与収入金額 控除額
〜162.5万円以下 65万円
162.5万円超〜180万円以下 収入金額 × 40%
180万円超〜360万円以下  〃   × 30% + 18万円
360万円超〜660万円以下  〃   × 20% + 54万円
660万円超〜1000万円以下  〃   × 10% + 120万円
1000万円超〜 〃   × 5% + 170万円

 この給与所得を基に所得税、住民税、健康保険税を計算します。
 では所得税ですが、次の算式
(給与所得‐基礎控除)×税率‐控除額
で計算しますが
(給与所得35万円)‐(基礎控除38万円)
の段階でマイナスになりますね、この場合は課税所得は0という扱いになり納税は発生しません。
 では住民税はどうでしょうか?住民税の基礎控除は33万円ですから課税所得は
(給与所得35万円)‐(基礎控除33万円)=2万円
となり、納税額は
2万円×(5%<表3参照>)=1千円
となるのですが、【所得割の非課税】という制度により、このケースでは住民税も非課税になります。
 所得割の非課税とは、
  1. 控除対象配偶者または扶養親族を有する場合→総所得金額が【35万円×(控除対象配偶者+扶養親族の数+1)+32万円】以下
  2. それ以外→総所得金額が35万円以下
に該当すれば住民税は非課税となるという制度です。
 最後に健康保険税はと言うと年間収入130万円までは扶養に入れますので、事業専従者給与が100万円ですから健康保険税は負担なしと考えます。
 以上により配偶者の使用可能資金は
所得‐所得税‐住民税‐健康保険税=100万円
という計算になります。


【家庭の計算】

 家庭としては
(事業主の使用可能資金674万850円)+(配偶者の使用可能資金100万円)=774万850円
になります。
 ケース2は専従者に年間300万円の給与を計上した場合で、ケース3は専従者に年間450万円の給与を計上した場合です。そして配偶者は年収で130万円を超えますので、健康保険税の計算は事業主の世帯割から配偶者1人分を計算すると1万8千円分減ります。配偶者は所得税・住民税が発生し、健康保険税も自身で支払うことになります。
 にもかかわらずケース1よりも事業主の所得税・住民税・健康保険税の全てが減少し、家庭としての使用可能資金はケース2、ケース3と配偶者への事業専従者給与支払額が多いほど増えていきます。

【分析】

 単純に表の家庭としての使用可能資金を比較するとケース3が最も多いことに気付きますね。ケース1<ケース2<ケース3と配偶者へ支払う専従者給与額をだんだん多くしているのですが、配偶者が負担する所得税・住民税・健康保険税が増えていくのにもかかわらず、家庭としての使用可能資金は増えていきます。これは超過累進課税という高額所得者ほど納税負担が増えていく日本の税制がそうさせており、配偶者に所得を分配することで事業主の所得が減っていき納税負担も減っていくからです。
 ではどのような時も配偶者への事業専従者給与支払額を多くすれば良いのか?と言うと、それは少し違います。

【適正額を把握すること】

 表5のケース4を見て下さい。

表5
   ケース4 ケース5 ケース6
事業主 配偶者 事業主 配偶者 事業主 配偶者
収入 20,000,000 900,000 6,000,000 1,000,000 6,000,000 1,500,000
経費 10,000,000     3,000,000        3,000,000       
専従者給与 9,000,000         1,000,000        1,500,000      
所得 1,000,000 9,000,000 2,000,000 1,000,000 1,500,000 1,500,000
給与所得控除 0 2,100,000 0 650,000 2,600,000 650,000
所得税 物的控除 550,000         550,000        550,000       
人的控除 1,390,000 380,000 1,390,000 380,000 1,390,000 380,000
課税所得 (940,000) 6,520,000 (60,000) (30,000) (820,000) 470,000
所得税 0 974,000 6,000 0 0 47,000
住民税 物的控除 535,000 0 535,000        535,000 0
人的控除 1,110,000 330,000 1,110,000 330,000 1,110,000 330,000
課税所得 (645,000) 6,570,000 355,000 20,000 (145,000) 520,000
住民税 0 537,600 17,550 0 0 26,000
健康保険税 基礎控除 330,000 330,000 330,000 0 330,000 330,000
課税所得 9,670,000 6,570,000 2,670,000 0 2,670,000 520,000
健康保険税 521,820 325,220 199,820 0 199,820 46,920
使用可能資金 478,180 7,163,180 1,776,430 1,000,000 1,300,180 1,380,080
家庭としての使用資金 7,641,360 2,776,430 2,680,260


  配偶者への事業専従者給与を900万円計上しました、するとケース1よりも家庭としての使用可能資金が減少します。超過累進課税が逆に作用し、奥様の納税額が増え所得分散効果 の損益点を超えてしまったことに起因します。もっとも現実的な問題として、事業主よりも事業専従者の収入が多いということ自体不自然ですが…。つまりやみくもに配偶者への給与を多くしても駄 目だということです。

【もう一つの注意点】

 ケース5、ケース6は事業収入が600万円の場合です。この時はケース1、2、3とは逆に事業専従者給与を多くすることで、家庭としての使用可能資金は減少します。これはもともと事業主所得が物的控除や人的控除の合計額に近いため納税額が少ない状況であるのに、配偶者の給与発生により事業主の人的控除が減り、加えて配偶者が所得税・住民税・健康保険税を負担することとなり、家庭としての納税が増えたことに起因します。

【大切なこと】

 収入や支出は事業規模や事業内容、あるいは家庭環境によって個別 に違うはずです。お子様への教育費等の支出額、両親の介護費用その他家庭を取り巻く環境は皆違います。従って大切なことは、各自収入の目論見(事業計画の作成等)を立て、将来的に発生する支出を把握することです(※これをキャッシュフロー表と言い、いずれご説明します)。
 具体的には10年後、20年後、30年後の長期的な見通しとこの1年の見通しを立て、この1年の収支の中で所得の分散が必要な規模だと判断されれば、税務署に給与変更の届を提出し、配偶者に支払う事業専従者給与の金額を増減させることも考えていかなければならないのです。
 この他の家族の方を専従者にしている場合もありますから、ご自身で参考資料を基に試算して、もっとも家庭としての収入が多い値を見つけ出して下さい。その場合は健康保険税の算出率等は各市町村に問い合わせることが必要不可欠です。また住民税も居住地の人口で違いますからご注意下さい。もっとも農通 コンサルティングでは、これらの試算はごく当たり前のこととして対応していますので、是非頼っていただきたいと存じます。


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