ファイナンシャル・プランナー 藤田秀一郎
【プロフィール】千葉エフピー協会組合代表理事。事業オーナー、医師、未亡人、退職者などに実践的な経理・財務・法務・労務コンサルティングを行う。著書に「FPの知恵袋」(BKC)他がある。
|
|
第7回 緊急!税制改正のワンポイント(1)
前号までは、「確定申告を有利に行うテクニック」と題して、個人の所得税・住民税・健康保険税に着目し、専従者給与の適正額から、家庭としての使用可能資金がより多く使える方法について分析してきました。
この後も、法人化して専従者給与を法人からの給与にした場合に、家庭としての使用可能資金が増える方法はないのかなど、更に分析していきたいのですが、本年の税制改正は着目すべきところが多数あるので、今回から数回に渡って、税制改正のポイントと改正への対応方法を分析した後で、続けていきたいと思います。
第1回目の今回は、大幅な改正が行われた贈与税と相続税について分析していきます。
まず現行の制度について、確認してみましょう。
【贈与税とは?】
個人から年間110円を越える財産をもらった場合は贈与税がかかります。
平成12年までの年の贈与税は年間60万円を超えればかかります。 会社など、法人から財産をもらった場合には、贈与税はかかりませんが、一時所得として所得税がかかる事になっています。
【贈与税の計算】
まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に、個人からもらった財産の価額を合計します。次に、もらった財産の価額から基礎控除の110万円を差し引き、その残額に税率をかけた額が贈与税になります(図1参照)。
図1 贈与税の計算例
-
100万円の贈与を受けた場合
100万円−110万円(基礎控除)=−10万円→0円(課税なし)
-
200万円の贈与を受けた場合
200万円−110万円(基礎控除)=90万円(課税価格) 90万円×10%(税率)=9万円(贈与税額)
-
500万円の贈与を受けた場合
500万円−110万円(基礎控除)=390万円(課税価格) 390万円×30%(税率)−47.5万円(控除額)=69.5万円(贈与税額)
-
1,000万円の贈与を受けた場合
1,000万円−110万円(基礎控除)=890万円(課税価格) 890万円×45%(税率)−140万円(控除額)=260.5万円(贈与税額)
|
相続税は、相続や遺贈によってもらった「正味の遺産額」が、基礎控除額を超える場合に、その超える額に対して課税されます(図2参照)。つまり、正味の遺産額が基礎控除額の範囲内であれば、相続税はかかりません。
(注)相続人に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとなります。これは「相続税の総額」の計算においても同じです。
【贈与税の計算方法】
課税遺産総額を法定相続分通りに分けたものとして、各法定相続人別
に税額を計算します。
この税額を合計したものが、相続税の総額です。
この相続税の総額を、各相続人や受遺者に、実際に取得した正味の遺産額の割合に応じて按分した額が、各人の相続税額です。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が1億6000万円を超えていても、正味の遺産額(配偶者が取得する正味の遺産額のうち隠ぺい、または仮装に係る部分は除かれます)の法定相続分に応ずる金額までであれば、配偶者には相続税はかかりません。
税額から控除されるもの
- 未成年者控除
相続人が未成年者の場合は、20歳に達するまでの年数1年につき6万円が控除されます。
- 障害者控除
相続人が障害者の場合は、70歳に達するまでの年数1年につき6万円(特別障害者の場合は12万円)が控除されます。
- 贈与税額控除
相続税の課税価格に加算された贈与財産の価格に対する贈与税額が控除されます。
相続時精算課税制度の創設
平成15年1月1日より、65歳以上の親から20歳以上の子が贈与を受ける場合、贈与する財産・種類・金額・贈与回数には制限がなく、贈与財産の合計が2500万円までは贈与税は課税されないという制度が創設されました。
この贈与は、何年にわたってもでき、合計が2500万円を超えた年度から、その超えた価額に一律20%の贈与税が課税されます。
この制度を利用するためには、最初に贈与した翌年の2月1日から3月15日までの間に、税務署へ贈与税の申告書と一緒に届け出を出す必要があります。ただしこの制度は、一度選択すると途中で止める事はできません。
父からの贈与にこの制度を選択し、数年後に父から30万円の贈与を受けた場合にも、贈与税の申告をする必要があります。
各年110万円の控除がある従来の贈与税課税方式も並存しており、この制度の2500万円枠を使い果
たし、その後通常の110万円控除の贈与税課税方式へ鞍替えする事を禁じています。
この制度を選択する場合には、以下に記します相続時の制度も勘案し、慎重に行なう必要があります。この制度を父親からの贈与で選択した場合、父親の相続税申告時には、父親の相続財産にそれまでの本制度による贈与財産を合算して相続税を計算し、次に支払った贈与税相当額(2500万円を超えて20%課税を受けた分)を差し引きます。
贈与税相当額の方が多い場合には、還付されます。
なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の時価となっています。
【新制度の具体的な有利不利】
相続財産が9000万円と7000万円の2つのケースで、贈与金額が1500万円、子供2人に毎年150万円を10年間贈与、相続人が子2人として試算したのが図3です。
図3
【相続財産が9000万円】
-
現行方式を使用する場合
贈与税
(150万円−110万円)×10%(税率)×10年×2人=80万円
相続税
相続財産:9000万円−3000万円=6000万円
基礎控除:5000万円+1000万円×2=7000万円
課税価格:6000万円−7000万円=0円
相続税:0円
納税額合計:贈与税80万円+相続税0円=80万円
-
相続時精算課税制度を使用する場合(贈与税は1人あたり2500万円まで非課税)
相続税
相続財産:9000万円−3000万円+3000万円=9000万円
基礎控除:5000万円+1000万円×2=7000万円
課税価格:9000万円−7000万円=2000万円
相続税:2000万円×1/2×10%×2人=200万円
納税額合計:贈与税0円+相続税200万円=200万円
|
【相続財産が7000万円】
-
現行方式を使用する場合
贈与税
(150万円−110万円)×10%(税率)×10年×2人=80万円
相続税
相続財産:7000万円−3000万円=4000万円
基礎控除:5000万円+1000万円×2=7000万円
課税価格:4000万円−7000万円=0円
相続税:0万円
納税額合計:贈与税80万円+相続税0円=80万円
-
相続時精算課税制度を使用する場合(贈与税は1人あたり2500万円まで非課税)
相続税
相続財産:7000万円−3000万円+3000万円=7000万円
基礎控除:5000万円+1000万円×2=7000万円
課税価格:7000万円−7000万円=0円
納税額合計:贈与税0円+相続税0円=0円
|
このように、相続財産の金額によって、現行の制度を活用した方が良い場合と、新制度を活用した方が良い場合があります。
これは、財産の種類や法定相続人の数、そしてどれだけの年数をかけて相続対策を行うかによっても変わってきます。
【その他ケースによっては110万円の基礎控除を活用した方が有利な場合】
相続時に持ち戻される贈与財産の評価は「贈与時の時価」
贈与時に時価2500万円であった土地が相続時に1000万円に値下がりしていたとしたら、せっかくこの制度を利用しながら、支払わなくて良かった相続税が課税される場合も出てきます。
長い年数をかけて贈与できる場合
110万円の基礎控除内で例えれば、110万円×40年=4400万円となり、新制度より多く贈与することが可能です。
【本制度の活用方法の一例】
1. 生前贈与の促進による相続争いの回避
2.
収益率の良い賃貸物件の建物部分だけを贈与する
建物の相続財産評価額は固定資産税評価額によりますし、相続時の建物の固定資産税評価は一般
的に新築価額の40%程度です。
従って固定資産税評価額2500万円の建物は約6000万円の現金に相当します。贈与後、贈与者の所得が減り、受贈者の所得増となります。
「農通コンサルティング」では、その他のケースについてもご相談に応じています。ぜひ頼りにしていただければと存じます。
連載の目次に戻る
|