ファイナンシャル・プランナー 藤田秀一郎
【プロフィール】千葉エフピー協会組合代表理事。事業オーナー、医師、未亡人、退職者などに実践的な経理・財務・法務・労務コンサルティングを行う。著書に「FPの知恵袋」(BKC)他がある。
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第8回 緊急!税制改正のワンポイント(3)
先月号では、「相続時課税清算制度」と「消費税改正」という、今年度の数多くの税制改正の中でも注意すべき部分に着目してきたのですが、緊急報告最終回の今回は「配偶者特別
控除」の改正についてです。
巷では「配偶者特別控除が廃止された?」と言われていますが、「配偶者特別
控除が縮小された」という表現の方が適切かもしれません。
では具体的にどのような改正でどのような影響があるのか分析していきます。
【配偶者特別
控除とは何か?】
配偶者控除は、所得がない、もしくは一定所得以下の配偶者が対象となります。高度経済成長期に「サラリーマン+専業主婦」という家族形態が一般
化したため、専業主婦を持つ家庭への税制優遇を目的に1987年に創設された比較的新しい制度です。創設当初は35万円で、その後1995年に38万円へ引き上げられましたが、パートタイマーの妻の所得が非課税限度額(年間103万円)を超えると、夫が所得税で配偶者控除を受けられなくなり、夫婦合わせた手取り額が減るという逆転現象が起こりました。そこで税制上の逆転現象をなくすため、表1のAとBを配偶者控除に上乗せした配偶者特別
控除が制定されました。
表1 配偶者特別控除の仕組み
もう少し具体的に説明しましょう。配偶者に関する控除は大別
すると配偶者控除と配偶者特別控除があります。配偶者控除は配偶者の年収が非課税限度額(現在は年収103万円で103万円を超えると、配偶者【妻】自身にも所得税がかかる)以内であれば受けられる「扶養控除」です。
配偶者特別控除は表1のAとBの2つの部分から構成されており、妻の年収が70万円未満なら夫の所得税を計算する時、年収から38万円(配偶者控除と合わせ76万円)が控除されます。そして70万円以上103万円未満で控除額が徐々に減り、103万円でいったんゼロになります。(A部分)。しかし、103万円を超えると配偶者控除がなくなる代わりに配偶者特別
控除38万円が復活し、徐々に減って141万円でゼロになります(B部分)。
【どういう改正なのか?】
この配偶者特別控除については「廃止」が検討されていました。でも、そうなると、対象者にとっては完全な増税です。
年収が800万円程度までの標準的なサラリーマン世帯(妻のパート収入は70万円未満)だと、所得税・住民税を合わせて4.5万〜6万円程度の負担増。年収が1221万円程度(給与所得控除などがあるので、合計所得金額は1000万円未満になります)までの人だと、増税額は9万円近くに上ります。
ちなみに、年収がこれ以上の人、正確に言うと合計所得金額が1000万円を超えている場合は、もともと配偶者特別
控除が適用されていませんので、負担増にはなりません。つまり、この改正で手取りが減るのは、中・低所得者だということです
実施時期は、2004年(平成16年)1月からで、所得税および個人住民税(平成17年度徴収)が影響を受けることになります。
まず、「一般家庭への影響」として、所得がまったくない専業主婦の場合の世帯で「定率減税など他の要素は考慮せずに」考えてみると、年間所得(年収ではなく、課税となる所得)200万円で
配偶者特別控除がなくなった場合、
所得税は380,000円(所得税上の配偶者特別控除)×10%=38,000円
住民税は330,000円(住民税上の配偶者特別控除)× 5%=16,500円
納税額が増え、 合計で38,000円+16,500円=54,500円の負担増になります
それをまとめたのが表2です。所得金額に合わせてご覧下さい。
表2
課税所得
|
税率 |
廃止による所得税・住民税の増税額 |
所得税 |
住民税 |
200万円以下 |
10% |
5% |
54,500円 |
200万円超〜330万円以下
|
10% |
10% |
71,000円 |
330万円超〜700万円以下
|
20% |
10% |
109,000円 |
700万円超〜900万円以下
|
20% |
13% |
118,900円 |
900万円超〜1,000万円以下 |
30% |
13% |
156,900円 |
1,000万円超 |
― |
年間所得1,000万円超の場合、 配偶者特別控除は非適用のため影響なし |
そこで、政府税調が出してきたのが、廃止ではなくて「縮小」という方向です。
配偶者特別控除はちょっと複雑な制度になっていて、2つの部分に大別されます。まず、先に述べた配偶者控除にプラスして適用される場合(「加算部分」と呼ばれています)が1つ目。そして2つ目は、妻自身のパート収入が年間103万円を超えた場合は配偶者控除が適用されなくなりますので、その結果
、夫婦合わせた手取りが減ることを避けるための「調整部分」として受けられる部分です。今回の改正は、このうちの「加算部分」が縮小されることになります。言い換えれば「稼ぎの少ない妻がいる世帯」がダメージを受けるということです。
【読者の皆さんにどんな影響があるのか】
家族構成が、Aさん、妻、16歳の長男(高校生)、14歳の長女(中学生)の4人、という事例で考えてみます。表3をご覧ください。
000111 |
ケース1 |
ケース2 |
ケース3 |
ケース4 |
事業主 |
配偶者 |
事業主 |
配偶者 |
事業主 |
配偶者 |
事業主 |
配偶者 |
課税所得 |
8,000,000 |
40,000 |
8,000,000 |
760,000
|
8,000,000 |
40,000 |
8,000,000 |
760,000 |
所得税 |
基礎控除
|
380,000 |
380,000 |
380,000 |
380,000 |
380,000 |
380,000 |
380,000 |
380,000 |
配偶者控除 |
380,000 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
配偶者特別
控除 |
380,000 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
扶養控除(長男分) |
630,000 |
0 |
630,000 |
0 |
630,000 |
0 |
630,000 |
0 |
扶養控除(長女分) |
380,000 |
0 |
380,000 |
0 |
380,000 |
0 |
380,000 |
0 |
課税所得 |
5,850,000 |
0 |
6,610,000
|
380,000 |
6,610,000 |
0 |
6,610,000 |
380,000 |
納税額 |
840,000 |
0 |
992,000 |
38,000 |
992,000 |
0 |
992,000 |
38,000 |
納税額合計 |
840,000 |
1,030,000 |
992,000 |
1,030,000 |
ケース1は、「妻の給与が69万円(専従者給与でなく、他でパートする等の給与収入で、事業主である夫が配偶者控除と配偶者特別
控除を満額使用できる)の場合」です。この69万円から給与所得控除65万円を引くと妻の所得は4万円となります。
次に事業主の所得税の計算ですが、事業主の所得税は細かい表現をすると(課税所得―物的控除
―人的控除)×所得税の税率 ―控除額となります。しかし、今回は配偶者控除他扶養控除が改正されることによる影響分析に重きを置いているので、表現が複雑になるのを避けるため省略しました。
その結果、人的控除と称する「配偶者控除等の扶養控除前所得」を課税所得としました。
この課税所得から
事業主本人の基礎控除380,000円+配偶者控除380,000円+配偶者特別
控除380,000円+長男の扶養控除(16歳以上23歳未満の特定扶養控除に該当)630,000円+長女の扶養控除380,000円=合計2,150,000円
を差し引くと、所得税(国税)の課税対象は5,850,000円となります。
表4
課税所得金額
|
税率 |
控除額 |
〜330万円以下 |
0 |
― |
330万円超〜
900万円以下 |
0 |
33万円 |
900万円超〜1800万円以下
|
0 |
123万円 |
1800万円超 |
0 |
249万円 |
表4の所得税の速算表により、 所得税は
5,850,000円 ×20% − 330,000円 = 840,000円 と算出されます。
一方配偶者は、4万円の課税所得から基礎控除38万円を差し引くとマイナスとなり、課税は発生しませんから、この家庭が支払う所得税は84万円となります。
以下、ケース2では「妻の給与が専従者給与でなく、事業主である夫が配偶者控除と配偶者特別
控が使用できない場合」、ケース3では「妻の給与が専従者給与であり、ケース1と同額の所得の場合」、ケース4では、「妻の給与が専従者給与であり、ケース2と同額の所得の場合」として、家庭としての所得税負担額を比較しています。
この様な比較を行った理由は、専従者給与に計上した場合「配偶者控除」及び「配偶者特別
控除」は使用できないという規定があり、個人事業で配偶者を事業専従者にしている場合はこの改正は特に影響はなく、法人として配偶者に役員報酬や給与を支払っている場合に影響が出ることを伝えたかったためです。
【読者の皆さんにどんな影響があるのか】
家族構成が、Aさん、妻、16歳の長男(高校生)、14歳の長女(中学生)の4人、という事例で考えてみます。表3をご覧ください。
おそらく政府は、配偶者特別控除を一度に廃止するのは現実的には難しいことから、表1のB部分は残し、A部分を段階的に縮小、廃止することを考えているのではないでしょうか?あるいは基礎控除を一部引き上げることも検討していると思われます。
借金漬け財政に加え、少子化で働き手がさらに減る10年、15年先の社会を考えた時に、皆で負担し、支え合う社会にしなければ、日本は保たないでしょう。もちろん税制だけでなく、年金制度ももっと大胆な変革を迫られるはずです。
答申では、特定扶養控除の「廃止を含め簡素化」も盛り込んでいます。こうした人に関わる控除は、高度成長時代には社会保障の不備の穴埋めに、その後は歳出切り詰めの代わりに次々に増え、今や17種類もありますが、廃止した前例はありません。利害が絡むだけに、一つひとつ丁寧に縮小、廃止していくしかなく、配偶者特別
控除はそのための第1弾の改革だとも考えられます。
そこで私たちは何をすべきでしょうか?
それは財産を把握し、事業の採算性や将来性等、現実の再チェックをし、考えられる可能な限りのシミュレーションや将来予測をすること、そして税金その他事業や生活に関連する支出を把握し、キャッシュフローの改善を図ることです。キャッシュフローの改善には、収入を得る努力や支出を削減する方向での見直し(ただし削減のみでは楽しみが消え収入に影響を与えることもあります)、あるいは、収入を守る「債権管理」や「有効な借入」も含まれます。
そこで次号からは、FP藤田の本業であるキャッシュフローの改善方法について語らせていただきたいと思います。その中ではもっと現実的な生活に関連する話題を取り上げ、現在まで農通
コンサルに送られてきた質問のうち、公開可能な部分を紹介しながらQ&A形式で説明してまいります。
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