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食料自給率向上の罠

「真に国民的政策目標足りえるか」
政府がはじめて食料自給率に疑問を呈した! | 農業経営者 6月号 |  (2009/06/01)

政府がはじめて食料自給率について疑問を呈した。それに代わる「所得目標」という指標を作り出す準備に入っている模様だ。しかし、農業の発展を阻害する新たな目標を作っても意味がない。やるべきことは政策追加ではなく、不要なものを取り除く作業だ。

政府の「農政改革特命チーム」は4月14日、食料自給率について「真に国民的政策目標足り得るか」と、自給率政策に疑問を呈する農政改革骨子案を明らかにした(『日本農業新聞』4月15日付)。ここ数年、“低い自給率”を盾に国民の不安を扇動し、省・農水族・農協・天下団体に利益誘導する“弱い農業”保護政策を毎日のように喧伝していた政府(農政改革6関係閣僚会合)がその有害性を認め、政策中止に踏み切る可能性をはじめて示したのだ。

本連載の目的は初回に宣言したとおり、「自給率指標の廃止」である。一定の成果が出たことを読者に報告しておきたい。

目下の焦点は、7月ごろに取りまとめる現政権の農政改革案において、自給率に変わる政策転換が示されるかどうかだ。

筆者との会合で、自給率政策担当幹部は今年1月、「たしかにこの政策に矛盾点は多い。しかし、他の省庁と比べ(農水省の)予算の減り幅は大きい。国民支持の高い自給率政策で予算増大に向けて挽回するしかない」と自ら省益誘導であることを認めていた。

こうしたモラルの低い、国民不在の職務をしているようでは農水省に未来はない。そんな危機感から生まれたのが冒頭の特命チームによる問題提起だろう。

『ジャパンタイムズ』が伝える日本農業の真の実力



本記事がその虚構性を論証してきた農水省による日本農業自虐史観についても、共同通信がその主旨、データをもとに、「本当に日本農業はただ“弱い”のか」という英文記事を世界に配信した。『ジャパンタイムズ』(4月4日付)に掲載され、記事をリンク、引用した欧米・アジアのウェブサイトで議論が巻き起こっている。おそらく日本農業の正味の実力が世界に発信されたのはこれがはじめてのことではなかろうか。

これまで、日本人の農業経営者がどれだけ無能で脆弱かを、自給率を根拠に“事実”として農水省がWTO交渉や記者会見、公的資料を通じて国外に流布してきた。小さな一歩だが、今回の外信で日本の志高き農業経営者に光が当たったことを歓迎したい。

(以下つづく)

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時流 | 食料自給率向上の罠

「自給率向上」から「儲かる専業農家増」へ
この指標転換で農業はずっとよくなる。 | 農業経営者 5月号 |  (2009/05/01)

来年、5年に1度の改定を迎える「食料・農業・農村基本計画」。自給率50%を目指す方向で議論が進む。計画倒れになることは火を見るより明らかだ。日本の「食料・農業・農村白書」に相当する英国の「農業報告書2007」の内容から、日本の農業政策を叩き直す突破口を見い出した。

自給率・自給力向上といった農業政策を真っ向から否定する英国政府の見解について2回に渡って解説した。では英国政府は一体、何をもって“いい農業”と評価し、どんな役割を農業に求めているのか。日本の「食料・農業・農村白書」に相当する英国の「農業報告書2007」から読み取っていこう。

英国農業政策の成功指標は“儲かる”専業農家増



 第一章は、「農業収入」。農業を専業で仕事にする国民が儲かっているかどうかだ。一番大事で、皆が知りたいことから始まっていて分かりやすい。専業農業者の現金収入はいくらか。農場の売上と利益はいくらか。儲かっている人と儲かっていない人の差はどれくらいか。過去と比べてどうか。経営品目別にみるとどうか。近い将来、いくらになりそうか。ほかのEU諸国と比べて、多いか少ないか。なぜそうなのか。以上が書いてある。儲けの差がなぜ起こるのかについても、「生産性の差だ」と身も蓋もないご名答が明記してあるのは、読んでいて気持ちがいい。

次に国全体で農業がどれだけ収入をもたらしているか。農業が生み出した総生産が、国全体のGDPにどれだけ貢献しているか。雇用にどれだけ寄与しているか。専業農業従事者1人当たりの付加価値(労働生産性)は上がっているか。下がっているか。地域経済にいくら貢献しているのかを記してある。

こうした数値をより正確にはじき出すのに、統計上の改善についても触れてある。従来の農業収入統計は純粋に農産物の生産額をもとにしていた。しかし、現実の農場経営はもっと多様化している。農産加工業に加え、農場資源を使った観光スポット、レジャー施設の利用売上などだ。これも農業収入として換算する必要があると説明している。

(以下つづく)

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時流 | 食料自給率向上の罠

日本の自給率向上政策のお手本
英国の自給率が15%下落していた! | 農業経営者 4月号 |  (2009/04/01)

国は教科書を使い、英国と比べ「低い自給率」「弱い農業」「来るべき食料危機」を事実として小学生に教える。実は英国の自給率(金額ベース)は下がり日本より低い。当の英国政府は、自給率と食料安全保障は、農業発展には関係ないと一刀両断。農水省の発表と完全に矛盾する。どちらが本当なのか。

自給率の教科書掲載で農業自虐史観を植え付け



小学校の社会科教科書では農水省が英国を自給率のお手本としていることを前提に、日本の自給率下降と英国の上昇を比較した(図1、図2)、こんな記述がみられる。

「日本以外の国は高いね。日本はどうしたのかな」「わたしたちの食べ物はどうなっていくのかな」「こんなに外国の食べ物にたよっていて、外国が不作になったら日本はどうなるのだろう」「わたしたちのくらしにとって食料自給率は、解決しなければならない問題になってきています」「農家や消費者を守るこれからの食料生産は、どのように進めていったらいいのでしょうか」(「東京書籍」「光村図書」の小学5年社会科教科書から抜粋)。

農水省は「英国の食料自給率が向上した理由を教えてください」という小学生からの質問をホームページに掲載し、こう答えている。

「2度の世界大戦で深刻な食料不足に陥った経験から、英国民の間に『食料は国内生産でまかなうことが重要』との認識が醸成され、これに基づいた農業施策が推進されてきたからです」(一部抜粋) しかし、当の英国政府はまったく違うことを言っている。食料自給率向上を国策にしない根拠は前号で紹介したとおりだ。自給率と食料安全保障を混同することは見当違いで、人工的に向上させようとすると農業の産業化や持続性、環境への負荷、国民の福祉、途上国の発展にとって害が大き過ぎるという結論だった。

教科書に自給率の記載があることは聞いていたが、ここまでひどいとは思っていなかった。低い自給率を引き合いに、小学生に日本農業の弱さを植付ける。輸入停止の可能性を示し、危機感を煽る。もっと低かった英国での向上成功を引き合いに、自給率は公的に解決すべき問題であると位置づける。そのために、弱い農家はただ守らなければならない存在であることを強調する。そして、今後の方向性は何も示さず、一抹の不安感だけを漂わせて終わり! 国の農業に対する自虐史観が詰まっている。取り上げた教科書はシェアの高い2社のものだが、全出版社で同様の記述がみられ、農水省による学習指導要領への周到な関与が伺える。
(以下つづく)

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