政府がはじめて食料自給率について疑問を呈した。それに代わる「所得目標」という指標を作り出す準備に入っている模様だ。しかし、農業の発展を阻害する新たな目標を作っても意味がない。やるべきことは政策追加ではなく、不要なものを取り除く作業だ。
政府の「農政改革特命チーム」は4月14日、食料自給率について「真に国民的政策目標足り得るか」と、自給率政策に疑問を呈する農政改革骨子案を明らかにした(『日本農業新聞』4月15日付)。ここ数年、“低い自給率”を盾に国民の不安を扇動し、省・農水族・農協・天下団体に利益誘導する“弱い農業”保護政策を毎日のように喧伝していた政府(農政改革6関係閣僚会合)がその有害性を認め、政策中止に踏み切る可能性をはじめて示したのだ。
本連載の目的は初回に宣言したとおり、「自給率指標の廃止」である。一定の成果が出たことを読者に報告しておきたい。
目下の焦点は、7月ごろに取りまとめる現政権の農政改革案において、自給率に変わる政策転換が示されるかどうかだ。
筆者との会合で、自給率政策担当幹部は今年1月、「たしかにこの政策に矛盾点は多い。しかし、他の省庁と比べ(農水省の)予算の減り幅は大きい。国民支持の高い自給率政策で予算増大に向けて挽回するしかない」と自ら省益誘導であることを認めていた。
こうしたモラルの低い、国民不在の職務をしているようでは農水省に未来はない。そんな危機感から生まれたのが冒頭の特命チームによる問題提起だろう。
『ジャパンタイムズ』が伝える日本農業の真の実力
本記事がその虚構性を論証してきた農水省による日本農業自虐史観についても、共同通信がその主旨、データをもとに、「本当に日本農業はただ“弱い”のか」という英文記事を世界に配信した。『ジャパンタイムズ』(4月4日付)に掲載され、記事をリンク、引用した欧米・アジアのウェブサイトで議論が巻き起こっている。おそらく日本農業の正味の実力が世界に発信されたのはこれがはじめてのことではなかろうか。
これまで、日本人の農業経営者がどれだけ無能で脆弱かを、自給率を根拠に“事実”として農水省がWTO交渉や記者会見、公的資料を通じて国外に流布してきた。小さな一歩だが、今回の外信で日本の志高き農業経営者に光が当たったことを歓迎したい。
(以下つづく)
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