自民党総裁選で5人の候補者が一様に向上を訴えたカロリーベースの食料自給率。その計算のインチキ加減を前号特集(10月号24〜26頁)で例証した。政府が国策として向上目標を定めるもうひとつの自給率がある。金額ベースだ。今回、その虚構性を証明する。
自給率に貢献できない罪悪感
前号の「インチキ食料自給率に騙されるな!」で、カロリーベースの自給率計算式そのものの無効性とその向上政策の有害性を例証した。
ある読者から「おかげで悩みが解消されました」と予期せぬ反応が寄せられた。
「作っているのは燃料を大量に消費して、カロリーが低い農産物。食料がたいへんな状況になりそうなのに、自分は自給率にぜんぜん貢献していないんじゃないかと……」。
彼はお客様にいいモノを届けたいと一生懸命な若手経営者である。そんな彼に、無用な罪悪感を起こさせるような暗く陰湿な政策など、さっさと止めてもらいたい。
別の方からはこんなご意見をいただいた。
「他の先進国の海外依存もこんなに高かったのか。金額ベースで日本は約7割も自給率があると知って自信がもてた。農水省は国際競争力の指標になる金額ベースを全面に出すべきだ」
ごもっともだと思い、取材してみた。結論は上の表1である。驚くことなかれ! 日本の金額ベース自給率は主要国のなかで、すでにNo.1である。国は2015年の目標として現在の66%から76%までの向上を掲げるが、世界でぶっちぎりNo.1を目指しているということか? 否、金額ベースの指標にもカロリーベースと同様、農水省の巧妙な罠が仕掛けてあったのだ。罠に気付いた経緯を説明しよう。
日本と海外の金額ベース自給率を比較しようと農水省のホームページで調べてみた。いくら探しても出てこない。省自給率担当に尋ねたところ、「計算したことがない。海外は正確なデータもないし。今後調べるつもりがあるかどうかも、回答できない」とわざわざ念を押す。これは怪しすぎる。
カロリーベースの場合、「主要国で最低水準」と日本の低さを強調するために、さんざん比較していた海外の自給率。膨大な計算を要する主要10カ国のカロリーベース自給率を昭和36年分から公開しておいて、単純に出せる金額ベースの計算をしていないはずがない。
(以下つづく)
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浅川芳裕blog●