【国際連合大学副学長 安井 至】
地球の歴史を長期的に眺めるならば、ホモサピエンスとは、せいぜい十数万年前、つまりごく最近になって現われた「新参者」にすぎない。したがって私たちが食べているものは基本的に、人間がのさばる以前から地球に存在した生物であり、神が与えてくれたものでも、人間のために特別に作られたものでもない。
食物にリスクはつきもの
現代人は、自分たちが他の生命を食べて生きていることを都合よく忘れている。作物や家畜の場合、品種改良などの努力も重ねられてきたが、生き物である以上、完全に無害であるとは限らない。例えば植物は昆虫などから身を守るため、体内に毒物を準備している。食べる側にとって多少のリスクがあるのは当然で、食物にパーフェクトな安全性を求めるのは、人間の思い上がりである。
また、安全と安心はまったく異なる概念であり、安心は詰まるところ、悟りの中からしか生まれない。