水田農業と財政負担について考える
【講師/叶芳和氏(日本経済大学大学院経営学研究科教授・元国民経済研究協会理事長】
叶氏には『農業経営社』4月号のシリーズ・水田農業イノベーションにおいて
「食料自給率とトウモロコシ国産化の寄与度」というタイトルでご寄稿いただいています。
その中で叶氏は、政府がカロリーベース食料自給率の向上目標を45%に下方修正しましたが、その実現のための方策としてある「飼料米政策(標準反収で80,000円、多収性品種で117,000円の転作助成)」では、1%自給率を向上させるのに必要な財政負担は4,210億円~4,920億円になります。一方、それを「トウモロコシ(飼料作転作助成35,000円)」で行なうなら、財政負担は1,030億円で済むと試算しています。
仮に、飼料米による水田転作で現在の自給率39%を45%まで6%向上させるとするならば、実に6倍の2兆5,260億~2兆9,520億円と現在の農業予算以上の財政負担が必要になるわけです。政府はカロリーベース食料自給率向上を語りながらも、それを実現するのにどれだけの財政負担が必要になるかを国民に説明をしていません。このことを国民が知らないからこの政策は続いているのです。納税者はこの水田転作、とりわけ飼料米による過大な交付金をいつまで許してくれるのでしょうか。それがいつまでも続くと考えられますか。
本誌読者を含む水田農家にしてみれば、実質的に収入が増える過大な交付金を歓迎する向きもあるでしょう。しかし、それで良いのでしょうか。
本誌はこう考えます。
国内農業を安定的に維持させていくために農業生産者に一定の直接支払が行なわれることを否定するものではありません。しかし、農業経営者がそうした交付金に依存する経営に陥ることは農業経営そして日本農業をむしろ弱体化させることにつながると考えます。
本誌が、水田あるいは畑で穀物としてのトウモロコシ生産をお勧めするのは、それが水田経営者にとっての経営リスクを減らす手段となり得るからです。同時に、より小さな財政負担でも水田農業の健全な成長発展につながると確信するからです。さらには、これからの農業生産者の減少のなかで財政負担に頼らずとも水田農業経営が可能になる国民、消費者の支持の得られる商品開発を含む民間ベースの国産トウモロコシ振興策を進めていくべきだと考えています。
TPP交渉の中で、現在の高関税が続く限り米国はさらなる別枠のコメ輸入を要求してくるでしょう。それに対して我々は「反対」を叫び、政府による保護を求めていくだけでは答えになりません。現在の水田政策を財政負担の面から検証し、これからの水田農業経営を考えてまいりましょう。
『農業経営者』編集長 昆吉則
講師プロフィール
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。評論家、日本経済大学大学院教授。一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。元(財)国民経済研究協会理事長。拓殖大学教授、帝京平成大学教授を経て2012年から現職。主な著書に、『農業・先進国型産業論』日本経済新聞社1982年、『日本よ農業国家たれ』東洋経済新報社1984年、『農業ルネッサンス』講談社1990年、『赤い資本主義・中国』東洋経済新報社1993年、『走るアジア遅れる日本』日本評論社2001年、『新世代の農業挑戦』全国農業会議所2014年ほか。
【日時】
2015年5月12日(火)16:00〜18:00
【会場】
シチズンプラザ[高田馬場]
〒169-0075 新宿区高田馬場4-29-27
【参加費】
『農業経営者』定期購読者 2,160円(税込)
一般参加 10,800円(税込)
※ 今回、年間購読のお申込をいただいた場合も受講料は2,160円(税込)となります。