編集長コラム | ||
救世主となった「菌根」 | 農業経営者 7月号 | (1993/07/01)
そこを訪ねたのは、数種の嫌気性細菌を主体にしたゼリー状の菌の塊を池に投入することだけで、長い間苦労してきた養殖経営の根本的矛盾を解決したと伝え聞いていたからである。
養殖での「連作障害」が解決できたというのだ。障害は3年ないし5年目くらいから出始め、10年もすれば文字通り深刻な状態に陥る。水が腐り、赤潮が発生し、池の底からはガスがわくようになる。
最初の年は条件がたまたま良かったのだと思った。しかし3年間使って一度も水が腐らず赤潮も出ない。さらに、放流数を倍以上に増やしても問題が出ない。
変化はそれだけではなかった。池の底にたまったドロの性状が変わってしまったのだ。かつてはまさにヘドロ状態で、池の土は鼻が曲がるようなまさにドブの臭いだった。それがサラサラの状態で、臭いは鮎の香りになった。さらに、かつて腰まで水に浸かる超湿田であったのに、耕盤というのではないだろうが、いつの間にか底が落ち着いてきたというのだ。
鯉の養殖は、池に放流して10日から20日くらいまでに最初の難しさがあるのだそうだ。その時期の稚魚にはまだウロコができておらず、わずかの環境変化に影響を受け、寄生虫や病気にもかかりやすい。時期は5月の中~下旬。急に気温が上がり、水田と同じようにガスがわき、過剰な植物性あるいは動物性のプランクトンがわき、やがて水が腐り、赤潮も発生する。そうなった時には全滅である。赤潮の発生まではいかずとも、たちまち稚魚に虫や病気がつき、すぐにまん延する。
錦鯉養殖では、100坪の池だと2~3万尾が普通だそうだが、有田農産では5~7万尾くらいの稚魚を放流する。通常の2倍以上の過密飼いをしているわけだ。しかも、かつては放流しても生き残るのは3分の1程度だったが、今では病気が出ても手当て次第でまん延せず、放流した稚魚はほとんどそのまま成長する。だから、より厳しく選別してもその歩留まりは非常に良くなる。有田農産では今まで以上に高級で量的にも多くの鯉が生産できるようになった。
「水車やポンプを回すのは気休めに過ぎない。農業と同じ、肝心なのは土作りなんですよ。池の中に少々の酸素を供給したところで、池の底にたまる有機物や餌や糞がヘドロとしてたまる限り問題は解決しない。うちでも大量の堆肥は入れてる。もし水が抜けるような所なら寒の間に耕起して土を空気にさらすことでもずいぶん改善されるはず。でも、水の抜けないこの場所で、ただ菌の塊を池に投げ込むだけのことでそれが解決した。微生物の力って、使い方しだいですごい働きをする」
この微生物は、嫌気的条件の中で増殖し、有機酸を二酸化炭素に、硝酸態窒素を窒素ガスに、硫化水素を硫黄に変換する三種類の微生物を中心とした菌体の塊である。それを、ヘドロの中で優勢を誇る微生物群の間で生き残り、優勢な勢力とさせるために、菌体の塊としてヘドロの中に移植する方法がとられる。
人がより高い生産を求めるのは当然である。しかし、そこには必ず過剰な副産物に由来した障害が発生する。農業という生産の形が始まった時以来、人は安定した自然状態を壊し続けてきた。ただ、同時に人は自然と調和して安定した「循環」を維持する方法をも経験的に知り得てきた。堆肥、輪作、耕起法など様々なことを我々は知っているが、その縁の下で働いてきたのは微生物である。そして、我々は、もともと自然界に存在するそれらの微生物を「技術」として積極的に利用する時代になっているようだ。
養殖用に開発された菌体だが、そのノウハウは農業(例えば稲作等)での利用が考えられないだろうか。関心のある方は以下に問い合わせられたい。
(株)アラヤ tel:0761(24)5000
dating website
single women dating