編集長コラム | ||
その手間と経費は本当に必要? | 農業経営者 10月号 | (1995/10/01)
夏穫り キャベツ |
ダイコン | タマネギ | バレイショ | |||||
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産地 | 北海道 | 群馬県 | 北海道 | 兵庫県 | 北海道 | 兵庫県 | 北海道 | 長崎県 |
収量 (kg) |
5,450 | 5,718 | 3,537 | 2,803 | 5,440 | 5,377 | 3,710 | 2,160 |
農薬代 (円) |
3,147 | 43,372 | 5,867 | 32,327 | 13,748 | 15,529 | 7,953 | 12,433 |
タマネギでは兵庫と北海道はほぼ同水準であるが、長崎のバレイショが北海道の1.6倍、兵庫のダイコンでは5.5倍、群馬の夏キャベツにいたっては実に北海道の13.8倍もの農薬代を使っているのだ。この違いを見て府県の野菜生産者たちは唖然としないのだろうか。
これだけで単純に収益性の比較を語ることはできないが、その他の資機材費を含めた経費の差がさらに大きいことは容易に想像がつく。
ここまでくれば、「有機野菜」や「安全」などという付加価値ではなく、いくらか減収になっても、習慣化した農薬の使用を減らすだけで、結果として残る利益はむしろ大きくなるのではないだろうか。
確かに、北海道と府県とでは気象条件も違い、発生する病害虫の種類や量も違う。だが、理由はそれだけだろうか。
府県の代表的産地の野菜作経営が農業経営の平衡感覚を見失ってしまった結果だと言ったら言い過ぎだろうか。
僕はこう思う。北海道の畑作地帯では気象条件の制約や消費地から遠いという経営条件の悪さゆえに、麦、豆、バレイショ、ビート等のような単価の低い畑作物を輪作せざるを得なかった。収益性の点から除草剤や農薬の使用量は最小限にせざるを得ず、機械除草で足りない分は府県と比較にならない面積なのに人力除草をする。経費のかけられない農業だからこそ、土の持つ能力を最大限に引出すという農業のあたりまえさが残っているのではないかと。
これに対して、府県の野菜地帯では、消費地に近く有利な条件での販売も可能である。生産量の増大、売上が増加するにしたがって、少しくらいは経費がかかっても売下増でカバーしようという発想になり、そのことがそもそもの「土の能力(生命性の豊かさ)」を弱めていくことになった。また、各種の障害への対策も一時的には障害を軽減させても、所詮それは対症療法でしかない。それがさらに新たな障害の原因となり、さらに深刻な問題をもたらす悪循環に陥っていく。そして何より、そうした経験が農業経営者自身にとっての「あたりまえ」の経営感覚を失わせていくのである。
府県の野菜地帯に限らず、恵まれた条件にある者ほどその条件の良さを自覚せず、欲に支配され自らがよって立つ位置を見失いがちだ。そして、ある程度の空腹感や条件の悪さを自覚する者の方がまともさを維持しやすいのだろうか。
本誌の読者である鹿児島県出水市の澤田英幸氏は、11haの水稲作の内、3分の1を除草剤1回の減農薬、残りを合い鴨稲作やジャンボタニシでの完全無農薬栽培をしている。水田はプラウで耕す。ジャンボタニシは均平が悪く深い部分ができると稲を食害する。澤田氏の田でも食害を受けたり、除草がうまくいかずヒエだらけになることもあるそうだ。しかし、澤田氏はそれにこだわらない。一部に食害を受けたとしても何坪分かであり、その程度なら手をかけて人件費を使わなければ、大した損にはならない。むしろ、それを気にする「農家の見栄」が利益を減らすのだと言う。肥料は骨粉と油粕だけ。それほどの手間もかけず台風常襲地域である出水の平均的収量400・は充分にとれる。むしろ、農家が現代の技術を無疑問に信じていることが、土や作物が本来持っている能力を見失わさせているのでは、と澤田氏は話す。もっと管理レベルを上げれば収量はさらに上がるかもしれない。でも、手間との損得勘定で澤田氏はあえてそれをしない。にもかかわらず、水田や作物が本来の自然を取り戻すことで収量は増えてきている。
澤田氏が無農薬を始めたのは経費を減らすことが目的だった。かつては農協の指導のままに経費と手間をかけて規模拡大していった澤田氏であったが、その結果、年末に農協の支払を済ますと翌年の生活費にも窮するという危機的な年が続いた。いわば居直りで始まった有機無農薬栽培だったのだ。しかし、「やってみれば出来るもので、何でこれまでお金を捨てるようなことばかりしていた」と思うようになったと言う。肥料・農薬を買わなくなっただけでなく、機械の修理もほとんど自分でこなし、米の低温貯蔵庫も自分で建てたという澤田氏は、「ハッキリ言って儲かります」と話す。
現在、あたりまえに思っていることを改めて疑い、農業や経営にとっての本当の「あたりまえさ」を取り戻す必要があるのではなかろうか。そしてそれが、消費者の要求にも結び付くのだ。
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