編集長コラム | ||
貴方の「有機農産物」は本当に安全で美味しいか? | 農業経営者 12月号 | (1996/12/01)
「有機農産物」という付加価値商品が大量に出回るようになって、消費者の安心と誠実な生産者の努力と誇りを守るためにも、表示に関してなんらかのガイドラインや認証基準は必要だろう。
ところが、現状での「有機農産物ブーム」とは、生産者を含めて農産物流通業界や外食産業界においても「付加価値商品」としての視点でとらえられることが多い。そのために結果として「嘘付き商品」を作り上げてしまうような事態も生じている思う。畑に鶏糞振って段ボールに「有機」と大書きすれば通ってしまうような「嘘付き有機農産物」はそこいら中に氾濫している。
農産物に付加価値を付けるために、加工品を作ったり、パッケージやディスプレイに工夫したり、農産物その物に夢を語らせたり、販売方法やルートの新しさで顧客に迫れないかと考えたりする。それは正にマーケティングの基本であり、正当なことであろう。
仮にイメージ(幻想)で実物以上の価値を商品にプラスしたとしても、顧客がそれを納得するのなら、顧客は夢や幻想ごとその農産物を買ってくれたのである。それは決して言葉で購入者を騙しているわけではない。しかし、嘘はいけない。とりあえずお客には嘘が付けたとしても土や自然には嘘が付けないからだ。
そもそも「有機」だから「美味しい」、「有機」だから「安全」というのは本当なのだろうか。「有機」と付けば市場で高く売れるとばかりに、それこそ粗製濫造された「有機」と称する農産物の中には、安全どころか身体に害を与えるレベルの硝酸態窒素を含む野菜が目につく。
現在の「有機農産物ブーム」とは、「健康指向」といえば聞こえが良いが、それは、消費者が持つ過度に化学物質へ依存した農業生産への「不安」や農家への「不信」に発したものなのではないか。
そして、農業生産における農薬や化学肥料への依存度の高さが、作物の汚染ばかりでなく、作物生産そのものを不安定化させているのだ。
農業は自然界の物質循環(有機的連関)のなかで行なわれているものであり、そもそも「有機的」でない農業などというものはあり得ない。むしろ、もっともらしい「商標」としての「有機農産物」、あるいは「有機農業」が美しい言葉として一人歩きしてしまうことで、消費者や生産者を惑わせていることはないのか。
農薬や化学肥料が適正に使用されていたとしても(時にはだからこそ)安全で美味しいということもあるのだ。
本号の特集の通り、有機質、無機質といった肥料の種類を問わず施肥過剰が農産物と土壌の汚染を進めてきてしまった我が国の農業なのである。実は、「有機農産物」の中に過剰な硝酸態窒素を含む野菜が多いということは、有機農産物生産者が土壌汚染の犯人であるとも言われかねないことでもあるのだ。
欧米で「オーガニック」といわれる背景には、農薬使用の問題だけではない、そうした有機肥料を含めた過剰施肥など、農業生産活動による環境や食物の「汚染」への反省があるのではないか。日本より圧倒的に少ない肥料の使用量にもかかわらずにである。そして実は、我が国こそ過剰施肥の不安を一番背負っている国なのである。
無農薬や化学肥料を使わない農産物を欲する人に対して、それに応える生産者がいることの価値はいうまでもない。しかし、「有機」や特殊な農業や農産物が語られる前に、「本来」の土や農産物の姿、「あたりまえ」の農業の姿を取り戻すことを、そのために土壌の健全さを維持することをもっと真剣に考える必要がある。そして、それへの反省と、正確な知識の啓蒙がなされるべき時なのではないかと思う。
この記事は、困難な条件の中で無農薬栽培の野菜や米の生産に取組み、また、その販売・流通をしている方々を誹謗するために書いているのではない。その人達の努力は必ず報われるだろう。人は市場によって裁かれ、そしてお天道様によって淘汰されるものなのだ。そして必要なものが残っていく。
こちらは10年前に書かれた記事みたいですが,確かに消費者を惑わせる様な商品の表示の仕方は間違っていると思いますが、記事の中で硝酸態窒素について一方的な議論をされ、無農薬栽培農家または支持者への批判の仕方にはとても残念に感じました。今日、100%農薬フリー無農薬栽培というのは50年以上もの間農薬を使用/乱用してきた今、それが雨にも含まれ大地へと降り落ちる為無理に等しいと思います。ただアメリカのスタンフォード大学で最近リリースされた記事によると、あるリンゴ農園で一年間に及ぶ調査結果から、それぞれ一般農家、有機農家、それからこれら二つの施肥方法を融合した農家(Integrated farmer)の過剰施肥による水道水へ流出する硝酸態窒素の濃度を測り比べた結果一般農家のそれは有機農家に比べ4.4から5.6倍も多く含まれていたとワシントン州立大学土壌学試薬専門のReganold 教授は言っています。詳しくは http://www.stanford.edu/dept/news/pr/2006/pr-organics-030806.html を参考になさって下さい。