編集長コラム | ||
幕間のピエロで終わらないために | 農業経営者 10月号 | (1997/10/01)
在庫処理に困り、市況不透明感に焦って人が詐欺師に狙い撃ちされたのだ。欲にかられての詐欺被害とは違うだけに、お気の毒としか言いようがない。そして、それを悔やんでの自殺者も出ている。
そして、傷口に塩を塗るようなことだが、あえてこれだけは確認しよう。
不当たり手形を喰うのも今回の様な詐欺に会うのも、それは間違い無く経営者としての失態なのであり、いかに詐欺師が悪徳であろうとも、まず自らを恥じるべきである。それは事業者としての未熟さであり甘さの結果だからである。
米価の値下がりは予想していたにしても、これほど急激な展開を見せるとは多くの経営者たちは予測していなかった。
でも、農業界の「ベルリンの壁」はついに崩れ始めたのだ。むしろこれからが正念場なのだ。それに泣き言を言ってもはじまらないのだ。世間一般の事業者の常識からしてみれば、これまでの農業やその関連業界が特別だったと言うべきなのだ。あえていえば農業界のバブルがはじけたと考えるべきなのではないか。
少なくとも「農業経営者」と自負する者であれば、この困難をこれまでの「下駄を履かされた存在」から農業が一人前の業界になっていくための生みの苦しみと思うべきであるか。それは、農業が守るべき産業であるかいなかという問題とは別次元の話なのである。
詐欺師にいわせれば、米販売に悩む農家を騙すことなど赤子の手を捻るほどに簡単なことであっただろう。
彼らはきっとこうほくそ笑んだろう。
「所詮は世間知らずのにわか商売人。欲は深くても、ついこの前までは作るだけの百姓。少しくらい米を誉め『顧客の評判が良いですよ』くらいの話を聞かせてサンプル代を払えば、今なら後払いでもトラック一車分大喜びで送ってくるぜ。それに、世間の目を気にする農家なら訴えもしない」と。
どこの世界にも悪党や詐欺師はいるものだ。長く役人の支配下に置かれ市場の流通が無かった米業界でればこそ余計にブラックな世界が存在しているのだ。
これまで「大規模稲作経営者」などともてはやされてきた稲作経営者の多くも、所詮は食管制度というコップの中の嵐に右往左往、一喜一憂していただけといったら失礼だろうか。残念ながら、そう言わざるを得ないのだろう。でも貴方には自分の役割を「幕間のピエロ」では終わらせない覚悟があるはずだ。
農家を回って米を買集めている小売業者から聞いた話では。95%の農家は「領収書を書くなら売らないと」いうそうだ。
「『これだけはカアチャンに内諸にしてよ』というなら、情けないけど可愛いとも言えますよ。でもね、これテメエの商売じゃないのかよって言いたくなる。稲作りや米の販売がパチンコで儲かったことと同じ程度にしか考えていないんじゃないですかね。バクチの儲けと商売の区別が付いていない。そんな奴に限って、商売は相手を騙して儲けることだなんて思ってる。どうこうやって高く売りつけたなんて自慢話を商売人に向かってしやがる。商売なら駆け引きは当然かもしれないが、そんな野郎の米は二度と買おうと思わない」
昨年、彼が立てた販売企画のために、他の人より安く買うことになってしまった農家に、申し訳なかったからと今年は昨年の差額以上に高く買ったと話す30代の米業者は吐き捨てるようにそう言った。
僕も彼と同感である。
農業の世界とはまだこのレベルなのだ。もしブラックの世界と取り引きするのなら自ら裏の世界の住人になる覚悟が必要なのだ。米販売はますます信用のおける取引先を探さねばならない時代である。それはただ回収の心配が無いからだけでなく、彼らと共にお米のマーケティングに取り組まなければならないからだ。
いうまでもなく、商売とは人を騙すことではない。ギリギリの交渉をしたとしても「また今度もね」と言って別れる関係を作ることなのだ。ましてや、領収書も出さない農家など世間はまともに相手になどしてくれない。商売の舞台に上がる以前なのだ。下駄を脱いで一人前の商売人になること、そして詐欺師に騙されないことの基本とはそういうことなのではないだろうか。
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