編集長コラム | ||
不作の年こそ人は君を見ている | 農業経営者 10月号 | (1998/10/01)
北海道常呂町のO氏の場合、4号台風で常呂川の支流が増水し、過半の作物が流されたり水に漬かるなどの水害を受けた。しかも、4号台風の水が引く間もなく5号、6号、7号と、たて続けの台風の余波を受けた大雨でその被害はさらに広がった。海岸に面した低地のために水が引かないのである。そして、4号台風では難を逃れた作物もほとんどが収穫不能になってしまった。
同氏は本誌読者の子弟も研修を受けている、道内屈指の若手経営者である。4号台風が来る数日前まで、帯広の全国農機展(十勝博)で開いた本誌のイベントにもご協力をいただいていた。でも、どんな優れた経営者であろうとも、天災は回避できないのだ。自らの畑の片付けもそこそこに農協や町での対策会議で中心になって災害復興に取り組んでおられる使命感の強い同氏の姿が想像できる。畑作物の共済には加入しているとは伺ったが、その落胆はいかばかりのものだろう。しかし、水害は作物を押し流して通り過ぎていったとしても、O氏とその家族や仲間たちの勇気や意志はそんなこと位で流されることはないと信じている。
そして、こんな機会だから研修でお世話になっているK君にも言っておこうと思う。
もし、O氏が許して下さるのなら、君の手当てを返上してでも困難の中いるO氏とその家族と地域の方々のために働き、その生き方と振舞いの中から学ぶべきだ。それは、君がO氏のような農業経営者になるための、またとない「修業」のチャンスだからだ。
同時に、常呂町の中だけでなく、今年の全国的な不作の中で、農業と農民を、それにかかわる人々の振舞いを、その後の結果までを含めて見届けておくとよい。
水害を受けなかった玉ネギ産地では、今年は全く売れないと言われていた1台数百万もの玉ネギハーベスタが、水害の直後から1軒の販売店で1日に13台も注文があったというほど売れたという。買控えていた農家がここぞとばかりに機械を更新、増強したのだろう。過剰で低迷すると思われていた玉ネギ市況に商機があると見込んでのことだと思われる。
常呂町の人々からはニガニガしく見えるだろうが、投資余力のある「機を見るに敏」な農業経営者であれば、それが当然の対応なのである。
反面で全国的な天候不良が続いた今年の農業界では、供給不足のどさくさに紛れて、平年であれば見向きもされないような品質の農産物を、高値で売って「儲かった」などとほくそ笑む者もいる。そして、O-157騒動の後、あれほどに契約栽培に熱心であった農民や産地で、野菜の市場価格が高騰するとやいなや契約栽培物が一気に消えてしまうという事態が、今年は度々起きている。それは理念なき流通業界のご都合主義が貧しい農民根性にしっぺ返しを受けていることでもあるのだ。
しかし、そんな農業界そして農民たちが思い出すべきなのは、5年前に経験した天候不良による「高値」ではなく、その後に国民や農業と取引する者たちが抱いた農業や農民への「不信感」なのである。
人々は不作の中でのバブルを喜ぶピエロたちを見つめている。人は、農家の利益を妬むことではなく、その契約違反や嘘を忘れないのだ。そして、彼は確実に信用という資産を失うのだ。
K君。不作の時こそが農業経営者として農業と自らを見つめ、鍛える好機なのだ。
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