編集長コラム | ||
安沢英雄氏(オリジン東秀会長)のご冥福を祈る | 農業経営者 11月号 | (2002/11/01)
その訃報に接して、あらためて読み返してみたところますます意義深く、同氏への追悼を込めてインタビューの全文を再掲載させていただいた。
故安澤秀雄氏の創業は1966年。中華料理店「東秀」を小田急線千歳船橋に開店(有限会社東秀の設立)したことに始まる。10年後の1976年、世田谷区及び杉並区に「東秀」を6店出店し、会社を株式会社に改組する。さらに1994年、量り売りの惣菜と持ち帰り弁当を併売する「オリジン弁当」の第1号店を開店。1グラムからの計り売り、食材にこだわり、塩分も甘さも控え、化学調味料や防腐剤や添加物を使わない同社の惣菜と弁当は人気を博し、同社の急成長の礎となった。1997年に会社の商号を「株式会社東秀」から「オリジン東秀株式会社」に変更、同時に株式を店頭公開し、その後も目覚しい成長を遂げている。
同氏の日本の「食」と「農業」そしてその土台となる「土」への思い、「国民のための基本食」というテーマを持った新しい食文化作りの事業を成功させようという強い意志と経営理念に感銘を受けた。時代をリードする「中食」ビジネス界の最も注目される人物の一人であったが、その言葉は単なる農産物調達者のものではなかった。安澤氏の言葉には自らを「農業」と「土」にかかわる当事者たろうとする者の責任と自負が感じられた。
インタビューの中で、同氏は農産物に安全や本来の味を求めても、決して極端に「有機だ、無農薬だ」等と言う人ではなかった。ただ、農業として本来あたりまえなことである、土と作物のための循環を取り戻すこと、そして農業人たちが“お客様の立場に立って”選ばれるための競争に取組もうと呼びかけていた。
インタビューした年の3年前、同氏はガンを手術され、胃と脾臓を全摘出、すい臓の一部も切除したと聞いた。数時間おきに安静を取りながら仕事をされているとのことだった。65キロあったという体重が45キロにまで減っていた。
それでも、年に10回以上も海外へ出張すると話していた。キッチン付のホテルに泊まり、自らその土地の野菜を試食して歩くと話していた。そして、「それが残念ながら日本の野菜より美味いのです。それに香りやパワーがあるのを感じるのです」と話しておられた。その理由を日本の農業のありようだけでなく「土」が壊れていることを見抜いておられた。そして、病気になり身体機能が衰えたため「悪い物を食べると体が痛くなる」という自分の体の反応を、良い食材、良い調理を考えるために自らが人体実験の手段にしているのだと話しておられた。
そんな精神が、それまでの業界の常識であった濃い味付けやコストと効率を求めることを優先させる常識を破る、“食材にこだわり、塩分も甘さも控えめで、化学調味料や防腐剤や添加物を使わない”「オリジン弁当」を事業化させたのであろう。それも、「国民のための基本食」を目指し、その価値を際立たせるためにわざわざ競争相手としてのコンビニのそばに出店するという手法をとりながら。
開店当初は、薄味の味付けに「こんなものは食べられない」との反発もあったという。でも、薄味だからこそ素材の良さが解るのだと安澤氏は言った。やがて味だけでなく1グラムから買える惣菜と弁当との併売という業態そのものを支持してくれるお客さんが集まってきた。
自分の外食業者としての30年間の人生を振り返りながら、安澤氏はしみじみと呟いた。
「オリジンは私に、本当にお客さんの側に立ったものとは何かを見せてくれました。オリジンは神様が私に最後に与えてくれた宝と思っています」
また、学生時代に反権力の闘争で権力を奪取して社会を変えようと思っていた時代もあったと前置きして、こうも言った。
「『お客さん』にこそ喜んでいただく、それが社会の中で自分の理念を実現できる会社であると考えています。それが創業の原点でもあり、今でもそれは変わりません」
病んだ体そのものまでも、自らの食ビジネスをあり様を定める実験台とした同氏の経営者として、そして“食”産業人としての生き様を、“壮絶な人生”と見る人もいるかもしれない。しかし、一度しかお目にかかったことのない筆者が、ご遺族や同社の皆様のお気持ちも考えずにこのようなことを申し上げることははなはだ僭越であることを承知の上で、故安澤秀雄氏は、理想を持った農と食にかかわる事業経営者として、その一端に触れた者たちに多くのものを伝え、短くとも素晴らしい人生を送られたのだと思いたい。
そして、読者の皆様には、安澤氏のインタビューの中にある日本の農業経営者たちに向けて発された言葉をぜひとも読み返していただきたいと思う。
故安澤秀雄氏のご冥福をお祈りするとともに、同社がその理念を失うことなく益々発展することを祈ってご無礼のお詫びと農業にかかわる者としての感謝の言葉とさせていただきたい。
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