編集長コラム | ||
田中正保氏に「江刺の稲」を見た | 農業経営者 9月号 | (2003/09/01)
レーザーレベラーを所有あるいはその水田農業経営への可能性を追求する農業経営者の研究グループである。8月7~8日の両日、第5回目の研究会が鳥取県で開催され全国から約百名の会員が集まった。
今回のテーマは「中山間地で生き残るための経営手法」。報告者でホスト役は鳥取県郡家町の田中正保氏(有限会社田中農場代表)。同氏が取組む「傾斜水田」の見学が今回のハイライトの一つだった。
“困難の時代を生き残る”ことを目標とする会員たちの興味は、田中氏の“技術”へのチャレンジだけでない。“勝ち残る”のではなく“選ばれる”田中氏の経営理念と生き様に参加者たちは強い印象を受けたはずだ。
田中氏は52歳。労働力は役員・従業員で7名、臨時雇用5名。約74haの経営耕地はすべて事務所から半径5km 圏内にまとまっている。作物は水稲が約54.1ha(うち、酒米16.2ha、餅米6.4ha)であり、豆類約7ha、その他13ha。地域の和牛生産農家から大量 の厩肥を集めて有機質肥料とした減農薬のコメを生産している。さらに、加工業者とともにプロが加工した餅、あんこ、きな粉、味噌、さらには同氏の作る黒大豆を使用する納豆までを販売する。
20インチの畑用プラウで20~30cmの耕起、40cmの心土破砕、10a当り2~3tの完熟堆肥散布、レーザーレベラーによる均平作業、深水管理を可能にする高さ20~30cmの畦畔造成、そしてポット育苗。
これだけ丁寧な圃場管理をしているのに収量は6~7俵。田中氏はあえて収量 より品質を優先させているのだ。顧客から求められる品質に応えることを第一の経営テーマと考えるからだ。
地力に頼る栽培である田中氏は化学肥料での栽培以上の気遣いが必要だろう。しかも作るのは倒伏しやすい酒米や有機コシヒカリ。酒米の場合には収穫も出穂から2ヶ月後になるという。需要家たちは田中氏の有機栽培による米や大豆を、食味が高いだけでなく夏を過ぎても品質が変わらないと評する。収穫物に込められた生命性の豊かさなのだろう。また、それが食味や酒や餅などに加工する場合の仕上がりを左右しているらしい。
こうした田中氏の取り組みを単に技術としての「土作り」という側面だけでとらえるべきではない。それは、田中氏の経営理念あるいは生き方なのである。だからこそ田中氏は成功者足りえるのだ。
同氏は減反が始まった昭和45年に就農した。養豚を中心とした経営だった田中氏は、あえて地域の減反を一手に引き受け、全ての田に麦などの転作作物を作った。土つくりのためだ。プラウで30cmの深さに起こし続けた。糞尿を集め田に還元した。皆が嫌がる減反を田に生きた作土を作るチャンスと考えたのだ。収入は限られ、しかも麦作りより土作りに手間と金がかかった。
昭和63年、米価が31年ぶりに6%低下した。米作りを始めるチャンスだと思った。そして、翌年の13haから年々規模を拡大していった。地域の転作を請負い、それを通 じて土作りをしてきた圃場である。
「そんな手間や投資をして6~7俵しか取れないのでは…」と言う人がいるかもしれない。でも、顧客と未来のためにそれに取組める田中氏こそ本物の経営者なのだと僕は思う。
「江刺の稲」の経営。田中氏の経営とはまさにそれだ。経営基盤作リへの明確な理念と計算。目先の利益にとらわれずそれを続ける勇気。社会や顧客に必要とされることへの自負心を持ち続ける。だからこそ収穫の多少にこだわるより、土に向けて戻し続ける。そして、田中氏はそれと同じ思いで顧客や人々との出会いを大事にするのだ。
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