編集長コラム | ||
安心なコメ生産者は73人? | 農業経営者 2月号 | (2004/02/01)
誌面に出ているタイトルは中吊り広告とは少しニュアンスが違った。「農業取材30余年 見つけた食の安全/米」という袖見出しで「無農薬が冷害に勝った」とあり、ページをめくると73人の農家あるいは生産法人の名前が一覧で出ている。その中に数名の本誌読者、それもよく存じ上げている名前もあった。その記事の筆者は農政記者としてはかつて僕も評価をしてきた元朝日新聞記者の長谷川煕氏である。
そもそもがその中吊り広告である。誌面には出てこない“安全な米農家73”という言葉遣いを中吊り広告に大書きすることは、雑誌の宣伝効果を越えて、満員電車に揺られる人々に「それならその73人の農家以外の人が作る米は危険だというのだろうか?」と思わせるだろう。それはその73人以外のまともな農業をしている人々の仕事への誹謗ではないか。
また、その記事を読む人たちにとっては、現在流通している農業や米の安全性というものに大きな誤解を与える内容なのだ。それは人々の不安を煽ることにしかつながらず、農業生産物の安全性を高める努力や失われている食品供給に関する信頼を取り戻そうとする努力に対する無益ないいがかりであるというべきである。
長谷川記者に問いたいのだが、それでは、ここに紹介された73人以外の生産者の米は危険であるというのか?
自分が使っている農薬や肥料の種類すら把握していないような生産者が多くいることは、現代の日本で“農産物の販売者”としての資格が問われて当然なのである。であればこそ本誌は社会的責任を負う者としての“農業経営者”の役割を語ってきた。もっとも、そういう農家が多い現状であればこそ、厳しい農薬使用基準が定められているともいえる。また、成分の毒性だけを云々することで実際の環境中や食品の安全性への影響をすぐに結びつける議論も科学的とはいえない。
さらに、いかにもその農業取材経験の中から探し出したかのような73人のリストの出所が、紙マルチ田植機のユーザーリストと、民間稲作研究所の稲葉光國氏の農法を行う人だけというのも、“農業取材30余年”とまでいって紹介するにはいかにも乱暴ではないか。「いのち、健康、環境を重視する稲作農業者の一群」との大そうなキャプションのついた掲載リストの作り方が、農業を専門にするベテランジャーナリストにしてはいかにもお粗末ではないのか。
「無農薬が冷害に勝った」とあるが、適切な土作りと栽培管理をした人々で無農薬ではないが今年も平年作であった人も少なくないことを取材した上で記事を書いているのか?
さらに、みのる産業による土付成苗田植機からポット育苗に至る技術開発は優れた技術であることに異論はないが、マット苗田植機でも平年作の人もいることを取材していないのか?
「農薬は安全だ」などというつもりは無い。本誌で多くの執筆者たちが語ってきたとおり、農薬に限らず我々が現代の暮らしや社会を成り立たせている技術評価は、何であれその技術の採用によって起こり得るリスクとそれがもたらす利益を秤に掛けて判断するほかはないのだ。絶対の安全などというものは存在しないからだ。
批判は良しとしても、日本の全稲作生産者の内、たった73人だけが安心の生産者であるかのように語る扇情的ジャーナリズムに対して、農業は食べる者のためにあると主張する筆者であればこそ苦言をいいたいのである。もう、そんな時代ではない。
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