編集長コラム | ||
“欲が深かければ”こそ他者と組む | 農業経営者 2月号 | (2005/02/01)
【「農業経営者」編集長 昆 吉則 -profile
】
僕の農業あるいは農業経営の先生とも言うべき高松求氏は、茨城県牛久市の畑作地域で農業をしてきた。かつて高松氏は、その地域での慣行的畑作物と養豚を経営し、また畑に竹を植えてタケノコを春の稼ぎとしていた。従来手がけていた陸稲も畑を陸田にしての水稲作に代え、さらに機械化を進め集落の外部に水田を借りて、畑作地域に居ながら借地の稲作を中心とした複合経営へと発展していった。東京への通勤圏にあるその地域で農業に取り組むのは、野菜作を中心とする人々になっていた。高松氏は、借りた畑に豚から出る堆肥を撒いて麦や大豆を作り、そこに地域の野菜農家を招き入れて交換輪作をした。
同氏が麦や大豆を作り堆肥を入れて土作りした畑は、野菜作りをする人にとっては有難い条件であり、そこで作るサツマイモ、サトイモ、ダイコン、ニンジン、ラッカセイ、ミシマサイコ等々は、土壌消毒なしでもすこぶる出来が良かった。同氏もラッカセイやダイコン、ニンジンを作り、契約栽培のジャガイモを地域に取り込んでいた。
ところで、同氏が交換輪作に野菜農家を巻き込んだのには理由があり計算もあった。高松氏自身の麦の栽培面積を確保するためにもそれが必要だったのだ。
複合経営とはいえ中核である稲作は機械投資が大きい。でも、麦と組み合わせれば機械の償却費を半分にできる。仮に稲作を拡大しようとすれば、機械化によって面積は拡大できても、夫婦二人の労働力では作物の生長に合わせた管理に無理も生じてくる。夏作の分だけ作物の生理は活発であり、お天道様の時間は忙しいのだ。しかし、麦であれば播種や収穫の適期は短くても、冬作であればこそ拡大は容易なのである。農業という仕事では冬と夏の時間は違う速さで過ぎていくからだ。
さらに、土が軽く春の風で表土が飛ばされてしまう同地域では、麦で冬の畑を覆い、土の飛散を防ぐことが風土の中で人々が学んだ知恵でもあった。そうした風土の中で培われた農業の形が失われていくことを、異なる仕事をする者の協力で守ろうとした。麦作りは、それによる収入だけでなく、作り続けてきた土という地域の財産を守ることでもあったのだ。だから高松氏は、収穫を期待せずとも野菜農家に対して規格外となった麦を提供して、緑肥として播くことを勧めていたりもされていた。
15年から20年前のことである。すでに高松氏は、大学生時代から同氏の農場に研修に来ていた青年に現場を任せ、同時に他地域の人々や様々の業界人とも組みながら次世代に農業の可能性を伝えようとしておられる。本誌に度々出て来る「目線の揃う異質な者と組め」とは、同氏の言葉を僕が受け売りしているものなのである。
自ら条件作りをして異業種の人(別の作物を作る農家)にチャンスを提供する。見た目は野菜農家の方が得をするかに見えるこうした取組みを、高松氏は「私は欲が深いからそれができるのだよ」と言って笑っていた。しかし、高松さんのこの取組みを真似る農家は他には出て来なかった。でも、その後の高松氏は地域の中でも最も安定した農業経営者の晩年を楽しんでおられるように僕には見える。そこに高松氏の経営理念の勝利があるのだと思う。
だから本誌では「目線の揃う異業種とネットワークしよう」と呼びかけてきた。信頼のおける事業者との契約栽培による仕事の共有、あるいは顧客の共有をすることである。
ところで、同氏が交換輪作に野菜農家を巻き込んだのには理由があり計算もあった。高松氏自身の麦の栽培面積を確保するためにもそれが必要だったのだ。
複合経営とはいえ中核である稲作は機械投資が大きい。でも、麦と組み合わせれば機械の償却費を半分にできる。仮に稲作を拡大しようとすれば、機械化によって面積は拡大できても、夫婦二人の労働力では作物の生長に合わせた管理に無理も生じてくる。夏作の分だけ作物の生理は活発であり、お天道様の時間は忙しいのだ。しかし、麦であれば播種や収穫の適期は短くても、冬作であればこそ拡大は容易なのである。農業という仕事では冬と夏の時間は違う速さで過ぎていくからだ。
さらに、土が軽く春の風で表土が飛ばされてしまう同地域では、麦で冬の畑を覆い、土の飛散を防ぐことが風土の中で人々が学んだ知恵でもあった。そうした風土の中で培われた農業の形が失われていくことを、異なる仕事をする者の協力で守ろうとした。麦作りは、それによる収入だけでなく、作り続けてきた土という地域の財産を守ることでもあったのだ。だから高松氏は、収穫を期待せずとも野菜農家に対して規格外となった麦を提供して、緑肥として播くことを勧めていたりもされていた。
15年から20年前のことである。すでに高松氏は、大学生時代から同氏の農場に研修に来ていた青年に現場を任せ、同時に他地域の人々や様々の業界人とも組みながら次世代に農業の可能性を伝えようとしておられる。本誌に度々出て来る「目線の揃う異質な者と組め」とは、同氏の言葉を僕が受け売りしているものなのである。
自ら条件作りをして異業種の人(別の作物を作る農家)にチャンスを提供する。見た目は野菜農家の方が得をするかに見えるこうした取組みを、高松氏は「私は欲が深いからそれができるのだよ」と言って笑っていた。しかし、高松さんのこの取組みを真似る農家は他には出て来なかった。でも、その後の高松氏は地域の中でも最も安定した農業経営者の晩年を楽しんでおられるように僕には見える。そこに高松氏の経営理念の勝利があるのだと思う。
だから本誌では「目線の揃う異業種とネットワークしよう」と呼びかけてきた。信頼のおける事業者との契約栽培による仕事の共有、あるいは顧客の共有をすることである。
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