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「家族経営協定」の推進なんて時代錯誤ではないか? | 農業経営者 5月号 |  (2005/05/01)

【「農業経営者」編集長 昆 吉則 -profile
農業メディアや農水省、自治体の広報文書を見ていると「家族経営協定」という言葉が盛んに登場する。しかし、その報道は農家における家族経営協定締結が思惑通りに進んでいないというものだ。笛吹けども踊らずの状態であるらしい。

当然である。3、40年前ならともかく、今更、行政が個々の農家の家族関係に干渉し、指導するような時代ではないからだ。

商店経営の世帯や一般家庭向けて「家族経営協定」を結べなどという話は聞かない。なぜ農家だけの「家族経営協定」なのだろう。農水省の認識では農家は特別に民度が低いから、役人が指導して「家族経営協定」などというものを結ばせる必要があるとでもいうのだろうか。それとも、農村や農家は未だに封建社会の論理に縛られており、憲法第24条【家族生活における個人の尊厳と両性の平等】の精神を徹底させる必要を感じたのだろうか。協定を結んだという東北の稲作地域で大規模なライスセンターを経営する読者は「うちはちょうど就業規則を作ろうとしていたから……付き合いだね。ムラに住んでると役場や普及員の顔も立ててやらなきゃならんのよ。新しい制度ができるとその成果作りにノルマ課せられて彼らも可哀想だよ」と、大人の構えだ。また、こういう人もいた。
「ウチには何も言ってこない。何年か前、頼まれて認定農家になったのに、今度は足りてるってのか?」 農林水産省ホームページの「農林水産関係用語集」によれば、「家族経営協定」とは「農業経営に参画する個人の地位及び役割を明確化し、その意欲と能力を十分に発揮できるようにするため、経営の方針や家族一人ひとりの役割、働きやすい環境づくりなどについて家族みんなの話し合いにより取り決めるルール」とある。これは平成11年に制定された男女共同参画基本法に基づいている。「農業に従事する女性に政策的支援を与えるため」などと言われるが、そもそも背景にある男女共同参画基本法の論理そのものがすでに時代錯誤なのではあるまいか。僕の知る農業経営者やその夫人たちは、現在に矛盾を感じていたとしても、紋切り型の男女平等論を語る人は少ない。現実の人々は多様でしなやかに夫婦の関係を作っている。

もとより働き方のルール作りができていなければ経営の発展など見込めない。でも、農業関係者たちによる「家族経営協定」締結の指導がどれほどの有効性を持つというのだろうか。むしろ、農業関係者たちの新しい居場所作りのネタなのではと勘ぐりたくなる。

労働基準法でも10人未満の事業所では就業規則の作成を義務付けていない。小規模事業所の能力的な限界があることと同時にそこでは家業レベルなりの有効なルールや文化が存在しているという認識からだろう。逆に、立派な就業規則のある大会社が大企業病に陥り、お役人の仕事振りについては親方日の丸という枕詞が着いて回るくらいだ。役人にこんなことまで指導される時代はそろそろ終わりにしよう。

就業規則を作るというのなら、経営者自身が経営の理念を考え、葛藤や矛盾を抱えながらも自らそれに取り組むべきだ。ある読者は言う。 「農協の営農口座を頼りにしないで○○農場と屋号で銀行口座を作るだけで、農家の仕事と暮らしは変る。もっとも、そうなると農家は農協の管理下から離れていくのだよね」
Posted by 編集部 08:30

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