提言 | 視点 | ||
自立の気概で農業に魅力を | 農業経営者 1月号 | (2006/01/01)
【和歌山県知事 木村良樹】
和歌山県と人材派遣大手のパソナ、JAなどが一体となって、農業の新たな担い手を育成する「鄙の里塾」が、昨年10月にスタートした。塾生は研修を終えた後、農業に参入する株式会社や生産法人に就職してもいいし、自営農を目指す人には、県が農地をあっせんする。すでに県では、人手不足の林業に都会の人たちを呼び込む「緑の雇用」を先行させ、成果をあげている。今後はその農業版を展開していく。
多様な農業が共存する
「農業はこんなもの」という固定観念は崩れつつある。社会や人々の価値観が多様化したからこそ、多様な農業が共存できるとも言える。
私は、日本が食料の大部分を輸入に頼る仕組みは、長期的には維持できないと思っている。しかし、農地をもっと集約し、企業的な大量生産が可能になれば、外国産にも、ある程度対抗しうる。
加えて、今の消費者は品質のよいものには、納得して高いお金を払う。つまり小規模でも、意欲と技術をもつ本格派の農家なら、高付加価値な作物を高く売ることができる。
耕作放棄地に関しては、どこかの企業に貸し出し、そこの社員が野菜作りを楽しむ「企業菜園」を実現できないかと考えている。日常的な管理を請け負う法人を作れば、そこでも就農希望者を雇える。定年退職者が働ける場としての利用も可能だ。
一次産業が魅力を持てば、都市と地方との間に人の流れが生まれる。そんな「和歌山型」の新形態を生み出し、全国に敷衍していきたい。
思考停止では始まらない
戦後の農政は、農業を過保護にし、農家から誇りを奪った。多くの農家は“自営”と言いながら、経営を政府に依存し、労働力を提供するだけの存在になった。生産者の間から「農業は生産性が低い、後継者がいない、補助金が減った」と嘆く声を聞く。しかし、農業が遅れた分野になったのは、面倒くさくない従来からのやり方にどっぷり浸かってきたからではなかったか。
思考停止に陥っていては、物事は先に進まない。既存の農業者には、まず自ら何かに気づき、知恵を絞って欲しい。自己責任、自己完結には厳しさが伴うが、きっと楽しさもある。行政も、頑張っている経営者が報われるような支援には取り組むし、セーフティネットなどの面では手助けをする。
大切なのは、従来の延長線上で考えないこと。地方の中央からの自立も、農業の保護からの自立も、問題の根は同じだ。私たちに求められているのは気概だと思う。
(インタビュー・まとめ 秋山基)
木村良樹(きむら よしき)
1952年大阪府生まれ。京大法学部卒業後、旧自治省入省。和歌山県総務部長、自治省財政局指導課長、大阪府総務部長、同副知事などを経て、2000年和歌山県知事に当選。現在2期目。著書に『鄙の底力―紀の国からの発想』(中央公論新社)がある。