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提言 | 視点

本当の付加価値を伝えるために | 農業経営者 2月号 | (2006/02/01)

【須藤本家(株)社長 五十五代目当主 須藤悦康】
view0602.jpg 須藤本家では、純米吟醸と純米大吟醸だけを造っている。そのため製造原価はかかるし、大量生産は不可能だ。そういう蔵は国内にはほかにない。

ある米国人のホテル経営者に、私どもの酒を試飲してもらった時のこと。口にふくんだ彼は一言、「これは価値がある」と言ってくれた。

その言葉は非常に印象的だった。おそらく彼は、即物的な価値に言及したのではなかっただろう。商品の背景にあるもの、私どもが酒を醸す際の考え方を理解し、共感してくれたのだと思う。
かつて日本人は料理と酒のマリアージュ(相性)という感性を持っていた。それぞれの料理に合う酒を選び、食べ物によってお燗の温度を変えたりもした。

だが戦後、日本人は首から上がなくなった。嗜好が変化しただけでなく、食べ物が味ではなく、価格で判断されるようになった。良い酒を醸し、良い味を残さなければ、日本の食文化が壊れてしまう。そう思って私は家業を継いだ。

以来、私は「売る」を前提に酒を造っていない。販売しないとビジネスは成り立たないが、小さな蔵が資本競争に巻き込まれれば、無理が生じる。0.1%の人に喜んでいただければ十分と考えてきた。

「売りたい気持ち」が先にあったのでは、真の付加価値は生まれない。マーケティングは結果論の分析であり、品質の伴わない商品にストーリーを添えても意味はない。信頼を失うだけである。

私は全国で初めて、火入れしない生酒を出すなど、既成概念にとらわれない酒造りを行ってきた。伝統と言うと、「引き継ぐもの」と勘違いされがちだが、本当はイノベーションの連続だ。従来の技法をすべて修得し、乗り越えた時、イノベーションとの融合が見えてくる。新たなものを取り入れなければ、伝統は一瞬にして消える。

海外に商品を輸出し始めたのは、米国で飲んだ日本酒のひどさに衝撃を受けたのがきっかけだった。自ら販路を開拓し、昨年はラスベガスで、12年間、生々()で熟成させた純米大吟醸酒に1本(720p)約143万円の値がついた。

近年、欧米で日本酒の評価は高まっているが、ワインを凌駕するほどのものは僅少である。欧米人は味覚が肥えており、選別の目は厳しい。珍しさだけで売れる時代はもう終わった。

私も、ぜいたく品市場を狙う意図はない。そうではなく、日本酒の本当のおいしさを内外に伝え、価値を見極められる人を増やす。もの作りの精神や哲学が伝わるような世の中を創っていくことが使命だと感じている。
(インタビュー・まとめ 秋山基)
※貯蔵前、瓶詰め時にも一切の火入れをしない酒。「本生(ほんなま)」とも呼ばれる。
須藤悦康(すどう よしやす)
1954年茨城県友部町生まれ。東京農大で醸造学を学んだ後、同大学院博士課程(農業経済学)修得。須藤本家は創業860年以上、現存する蔵としては日本最古と言われる。「酒・米・土・水・木」を家訓とし、その商品は国内だけなく、海外のソムリエからも評価されている。96年法人化し、社長就任。
http://www.sudohonke.co.jp
Posted by 編集部 11:30

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