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農業技術 | 乾田直播による水田経営革新

Vol.8 乾田直播の先にある「総合水田経営」 | 農業経営者 9月号 | (2006/09/01)

【コメ産業コンサルタント 田牧一郎 -profile
矢久保農場を訪問し、お話をうかがったときのことである。乾田直播栽培をなぜ行っているのか?
基本的な質問を再度した。まだ確立していない技術に先駆者として取り組んできた矢久保さんである。多くの困難に直面しながらもここまで継続し、この技術を作り上げてきた。

当然、矢久保さん個人の強い意志と将来のコメ作り農業にかける情熱によるものである。それと同時に、一緒に仕事をされている奥さん、そして後継者の諭さん夫妻の理解と協力があってのことである。スガノ農機がプラウメーカーとして培った技術でレーザーレベラや播種機の開発に取り組んできたことも大きな支えとなった。

今、乾田直播技術に取り組んでいる生産者、そしてこれから導入を考えている農業経営者に伝えるべき、矢久保さんからの大事なメッセージを感じた。

乾田直播栽培の目的



「イネの乾田直播栽培により、低コストで良い品質のコメができることは実証できたと思う」と矢久保さんは言う。しかし、これだけが乾田直播栽培の目的ではない。これだけといっても大変な成果であり、コメ生産の低コスト高品質化は、今後の国境を超えた産地間競争に勝ち抜くための基本的な要因である。そして、この先に矢久保さんが見ているものは、総合的な水田経営である。コメ単作ではなく畑作も取り入れた経営である。

水田は水田面に水をたたえること、そして水をたくさん使うことで連作障害を抑えてきた。毎年、同じ作業体系で長年継続して安定的な生産量を確保してきた。日本国内で食料を確保する上で、今日まで水田農業を継続できたことは非常に多きなメリットであった。しかし、コメは生産過剰状態が恒常的に続き、一方でコメ以外の穀物は極端な生産量の減少を起こした。これは近年の農産物に対する価格政策や国境政策の結果であり、国際競争力を持てなかった穀類と価格の安い輸入品との競争の結果でもある。

政策的にコメ以外の作物の生産刺激対策を立てたとしても、期待通りには進まない現実もある。この大きな原因には、コメ以外の作物に対する価格政策と、その両輪として大切な栽培技術と作業体系の確立という問題もある。手作業や小型の機械類を使用しての手間をかけた栽培は非効率的である上、土壌状態や毎年の気象の影響で単位面積当たりの収穫量や生産物の品質には大きな差がでる。結果として商品として安定した販売ができずに、経営として成り立たないことが問題である。

安定した畑作物の生産のために



この問題の根本にあるのは、水田になっている農地でコメ以外の穀物や野菜を作って、安定した売り上げが期待できるかどうかである。この点の重要性を感じ、矢久保さんは乾田直播栽培に取り組んでいる。乾直栽培の経験から言えることは、数年、イネの乾直栽培を続けることで水田の土は、ごろごろした大きな塊が減少し、さらさらした扱いやすい土に変化する。

これはイネの栽培のためにプラウで起こすことと、排水対策をしっかり行っていること、この2つの作業とイネ栽培の組み合わせの結果と言える。今まで水田でコメからの転作作物として適当なものはなかった。作業の上では常に湿害に悩まされていたのも事実である。畑の土がすべて良いわけではないが、少なくとも水田の土とは大きく異なることははっきりわかる。水田の土がそのような状態になることで、畑で生産される作物が栽培可能になる。

さらに水田の比較的大きな区画で、水稲栽培に使用している比較的大きな機械での作業を可能にすれば、肉体労働が軽減され大規模栽培が可能となり、低コストで安定した反収を確保できるようになる。技術と作業体系がセットとして普及することで、将来が見えてくる。

今後の技術開発について



当然、実際に行って始めて、見えてくることや解決しなければならない問題に直面することも予想される。これが新技術に取り組んだときのリスクであるが、先駆者として利益を確保できる可能性もそこにある。未知の技術の開発は、試験場や大学など、公的な研究機関が取り組むのが本来の姿であるが、必ずしも成果が早く出てくるとも限らない。

篤農技術が多く存在しているのがそれを物語っている。乾田直播技術とその先にある畑作を組み合わせた総合水田経営の技術対策もその一つだと思う。経営資源として何がどれだけあるのかを常に確認し、その有効利用を考えるのが経営である。不採算部門の切り捨ても含めた改善策を実行しなければ経営は継続できない。

新技術への研究開発はどこまでリスクを負えるか、それぞれの経営で事情が異なる。個々の稲作農家が新技術の研究開発ができるほど簡単なものではないが、できる限りの情報を収集し、使えるものを試すことは可能である。その試行錯誤が将来の技術を生み出す基になっている。

カリフォルニア式「変則乾田直播」のイネ

下の写真はカリフォルニアの水田である。日本品種の生産者が、従来とは少し違った取り組みをしたものである。飛行機で乾田に播種した後、覆土を行う“変則乾田直播栽培”と表現できる。カリフォルニアの日本品種生産者は、飛行機で水をためた水田に種を播く方式の問題を認識している。

しかし、有効な対策手段がないため毎年同じ湛水直播栽培を継続している。そこで今年は試みとして前述のような作業手順で行った生産者がいる。今のところ、大変良く生育している。当然播種量も従来より減らし、ある程度分ケツを確保しながら、土の中から芽を出させようとの目的であった。

今年は春遅くまで降った雨のため播種作業が平年より遅れたが、7月末で分ケツもある程度確保でき、幼穂が約1cmに育った。草丈も80cmと一般的な湛水直播より短くなっている。このイネの姿ならばある程度の穂肥も入れることが可能であり、倒伏も従来よりは少ないはずである。この取り組みは今年初めてであるが今のところ期待通りにきている。こちらも収穫期が楽しみなイネである。

paddy0609_01.jpg
「変則乾田直藩栽培のイネ6月16日」

paddy0609_02.jpg
「変則乾田直藩栽培のイネ7月30日」

Posted by 編集部 10:29

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コメント

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Posted by MyronGlarI  2021/04/16 19:58:53

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