提言 | 視点 | ||
消費者の意識をいかに変えるか | 農業経営者 10月号 | (2006/10/01)
【毎日新聞編集委員 小島正美】
環境ホルモンやダイオキシン、遺伝子組み換え(GM)技術などをめぐり、私はかつて主にその危険性や問題点を取り上げてきた。だが、報道がリスクに傾きすぎると、消費者は過剰に反応する。次第に「これはまずい」と感じ始めた。
数年前、米国でGM作物を作っている生産者を取材した。彼らは「農薬の使用が減り、地下水汚染や土壌流出も防げるので、GM技術は環境に良い」と話していた。私はびっくりすると同時に、こういうことを知らずに記事を書いていたのかと恥ずかしさを覚えた。
不安増幅の構図
最近の私はリスク情報がどのように消費者に伝わるかに関心を持ちながら記事を書いている。しかし、私のような立場は日本のメディアではまだ少数だと思う。
GMについて言えば、栽培の現場を見たことがある記者はほとんどいない。本当に関心をもって取材する人も少ないだろう。
食の不安を煽るような記事が意図的に書かれているかと言うと、そうでもない。市民運動の動きを追い、「危険」に着目すれば、あまり深く考えなくてもパターンで記事は書けてしまう。加えて、記者には、行政や企業を批判して警鐘を鳴らすことが使命だという思い込みもある。その結果、限られた情報を基に導かれた誤った結論が、不安の意識を増幅させていく。
情報を発信する側にも問題はないだろうか。市民団体は「危険」を指摘するのが仕事だ。タレントを使うなどやり方は上手だし、生協ならおそらく何百という人数が全国各地で運動している。
一方、行政の情報発信は遅れている。企業側ではバイオや農薬など業界ごとの取り組みが見られるが、十分とは言えない。「マスコミは危険ばかり煽る」と愚痴を言う前に、もっと自分たちが動くべきだと思う。
メディアチェック機関を
消費者に正しい理解を求めるなら、各業界がまとまって、メディア報道をチェックする第三者機関を設立してもよいのではないか。日々の新聞、ニュースを監視し、誤りを発見したら抗議して、それに対する回答を消費者に開示すればいい。マスコミ向けに様々なセミナーを開いて科学知識の普及に努めれば、記者の水準も上がる。
農業者も連携を作り、情報発信に加わってほしい。少なくともGM作物を国内で栽培しようとするなら、もっと消費者の心に触れるようなメッセージを考え、GMのメリットが伝わりやすい演出をする必要がある。
食を選択する権利が消費者にあるのは当然だ。しかし、消費者の意識は消費者によってのみ作られているわけではなく、決して変えられないものでもない。
(インタビュー・まとめ 秋山基)
小島正美(こじま まさみ)
1951年愛知県生まれ。愛知県立大卒業後、毎日新聞社入社。松本支局、千葉支局などを経て、現在は東京本社生活家庭部編集委員。主に環境や健康、食の問題を担当する。著書に『リスク眼力』(北斗出版)など