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説明し、分析する農業経営 | 農業経営者 11月号 | (2006/11/01)
【(株)グッドテーブルズ代表取締役社長 山本謙治】
これからの日本は高齢・人口減少社会に移行し、国民の「胃袋」が減っていく。世帯当たりの人数も減り、家庭で買う食品の量も少なくなる。料理しない主婦も常態化しつつある。この国の食の市場規模は間違いなく縮小に向かう。
その状況に伴って、農産物の売り方も変化するだろう。従来は、大多数を占める中間層と少数の富裕者層に向けて、モノを売っていればよかったが、今後は階層格差社会の到来によって、商品のラインナップは「高級品・一般品」から「高級品・PB(プライベートブランド)商品・一般品」の3層に分かれていく。PB商品とは、流通業界が独自の基準を設けて売る特別栽培農産物などを指す。
食文化を守る使命
高級品とPB商品を、私は「説明型商品」だと考えている。説明を要する、または説明をつけて売れる商品という意味だ。最近の消費者は刺激がないと反応しない。逆に刺激を与えられると反応する。だから、売り手は マーケティングやPRを通じて商品の食べ方や効能を説明しようと躍起になる。
企業による食育もその流れのひとつだろう。しかし、企業に食育を任せれば、自社商品を売らんがためのものになりがちで、そこには注意が必要だと思う。食文化の伝承を考えるなら、農業経営者が食育を担い、消費者が再帰的に行動する商品を作っていくべきだ。付加価値の高いカット野菜や加工用農産物を作るのも大切だろうが、きちんと手間をかけた料理を食べるという文化を消費者に取り戻させなければ、結局は生産者側が自分の首を絞めることになりかねない。
宝の山の活用を
説明型商品はトレーサビリティへの対応も求められる。ただし、これは農業者が企業と取引する際の必須要件というべきものであり、最近では安全・安心の立証というよりは、経営や栽培体系の文書化という意味合いが強くなってきている。
一方、トレーサビリティで蓄積された履歴は宝の山でもあり、優れた農業経営者はそのことに気づき、経営にフィードバックしている。ためたデータは技術レベルを向上させ、品質を高めるとともに、労務管理や人材育成にも役立てられるからだ。情報を活用し、効率化に繋げる分析型農業が今後、間違いなく伸びてくる。
そうなると、分析型農業に欠かせないのがITだ。幸い技術は急速に進歩しており、通信費用の低額化も進んでいる。ITは使えるかどうかではなく、使える人が使えるシーンを見つけて使うものだ。農業経営への導入に躊躇する必要はまったくない。
(インタビュー・まとめ 秋山基)
山本謙治(やまもと けんじ)
1971年生まれ。慶応大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。95年ヤンマー学生懸賞論文で大賞受賞。(株)野村総研、ワイズシステム(株)を経て独立。電子商取引、商品開発など様々な形で農業を支援する。著書に『実践 農産物トレーサビリティ<2>』(誠文堂新光社)など。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気。