農業技術 | 乾田直播による水田経営革新 | ||
Vol.11 乾田直播の効果と課題 | 農業経営者 12月号 | (2006/12/01)
【コメ産業コンサルタント 田牧一郎 -profile
】
2006年の栽培結果を振り返る
今年に入ってから、秋田県大潟村の矢久保農場におけるコメの乾田直播栽培を紹介してきた。単位面積あたりの作業時間を減少させること、そして安定した収量を確保することが、この栽培法の目的である。
結果としては、もう少し収量が高くなる可能性を確認しながらも、若干の茎数不足による収量の伸び悩みもあったといえる。連載第7回(2006年8月号)で、除草剤の使用により生育が遅れる障害が出たことを紹介したが、これが収量にも若干影響をおよぼした。次年度は散布の量や方法、そして散布時期など、今年の反省を生かした対策が講じられると思う。
今回はまとめの意味もあり、乾田直播栽培の効果や移植栽培との違い、そして問題点などを整理してみた。
最大の効果は生産コストの低減
これは誰も疑う余地がなく認められることである。育苗のコストがかからないのである。種子の準備は育苗と同じ手順で行ない、移植栽培と比較して若干多めの種子量を処理するだけである。育苗に関する作業がなくなり、育苗関連資材や機械、そして労賃の低減になる。移植作業と直播作業を比較すると、次のような違いがある。
(1)運搬
移植栽培では10aあたり15~20箱の苗をトラックにて積み下ろしする作業が発生するが、直播栽培では4kgの種子を運ぶだけである。
(2)作業能率
移植栽培では苗を田植え機に乗せる作業が発生するが、直播栽培では種子を播種機にセットするだけである。幅3mの直播機で、8条田植え機と同程度のスピードで作業を行なえる。 (3)機械の償却
専用機である田植え機と異なり、播種機はトラクタとセットで動くため、トラクタの償却費を按分して計上される。
作業面積を拡大してスケールメリットを追求
稲作経営にはスケールメリットがあるが、作付けや収穫時期の作業が集中する問題があった。育苗と同時に代かき移植そしてその後の水管理と、限界は否応なしに感じる。機械が大型化しても圃場が整備されても、移植栽培における1人あたりの作業面積には限界がある。
その対策もあって直播栽培が研究されてきたが、直播方式にもいろいろあり、それぞれ長所短所がある。スケールメリットを追求するには、乾田直播栽培が適している。育苗と代かき作業がなく、播種後の水管理もきわめて簡単にできる。問題は区画の大きさである。プラウとレーザーレベラを使うため、小さい水田では効率が著しく落ちてしまう。一定の広さがあれば、1人あたりの作業可能面積は格段に増加する。
的確な肥培管理が反収増加を導く
移植栽培や湛水直播栽培などと比較すると、乾田直播栽培では増収の可能性がある。理由は土の中から発芽してイネが育つために、早い時期から根の発育が確保されること。種子と種子の間に間隔があり、分ケツ茎が太く育ちやすい。太い茎は大きな穂が付き、しっかりした根で支えられていることから、倒伏にも強く遅くまで根から水と養分を吸収できる。したがって肥培管理が的確に行なえれば大粒の実がつくことになり、単位面積あたりの穂数も現状より増加させることが可能になる。無理のない増収の可能性が見えている。
排水に優れた圃場作りが畑作物の導入を可能にする
イネは水を多く使うため水入れがしやすいところ、そして水を溜めやすいところに作付けされてきた。そのためイネ以外の作物の栽培は困難になっているのが現状である。
しかし乾田直播栽培の条件を整備することによって、イネ以外の作物生産が可能になる。プラウやレーザーレベラの導入、さらに表面水処理の排水溝や籾殻暗渠の施用で排水の良い圃場を作ることは、乾田直播栽培の基本であり、成功への欠かせない対策である。これを実施することによって、コメに特化した農業経営だけでなく、コメと畑作の複合経営も可能になるのである。採算のとれる畑作が可能になることで、経営の幅が広がっていく。
経営環境の開拓が問題解決につながる
乾田直播栽培には、土地条件に影響されやすいという問題がある。水田区画が狭い、経営面積が小さい、圃場間の移動に時間がかかる、機械の価格が高いなど、稲作経営を考えるときにどこでも同じ問題にぶつかる。打開策を探しながら経営を続けているのが実態だが、それぞれの経営環境によって解決策は異なる。日本の平地におけるほとんどの農地は、30a区画以上に整備されており、これをどのように広げられるかが問題であるが、所有と利用が分離されていないことから、この問題は長く残っている。
経営面積は経営者の意欲と工夫で拡大可能である。借りるか買うか、あるいは作業を請け負うか、選択肢はある。機械の価格は外国と比較して高く、このような価格で流通してきたのが異常である。時間が解決してくれると思うが、有効な使い方を考え、面積あたり、あるいは生産物の重量あたりの機械コストを下げる対策はある。
問題点には必ず解決策があるということを理解して欲しい。条件の良い場所へ移って農業経営を行なうことも解決策のひとつである。日本の一般産業が競争力を求めて、あるいは市場を求めて世界へ出たように、農業経営者にも生まれ育った場所以外の日本、あるいは世界が選択肢としてあることを認識して欲しい。