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“隠れた市場”をどう見るか | 農業経営者4月号 | (2007/04/01)
【(株)NTTデータ ライフスケープマーケティング社長
齋藤 隆】
「食MAP」は、日本人の食卓事情を毎日欠かさず観察するデータベースだ。現在、関東の360世帯の協力を得て、1年365日の食事の内容をすべて報告してもらっている。1人暮らし(シングルス)を対象とした調査もすでに始まっている。
POS(販売時点管理)データでわかるのは、あるモノが売れたかどうかの結果にすぎない。これに対し、食MAPは、生活現場における様々なコトを生態学的に捉えようとする。
食い違う商品価値
消費者行動は、ニーズとニーズを実現する環境によって決まるといわれる。しかし今、ニーズは非常に不鮮明になっている。消費者が、何が欲しいのかがわからないまま、衝動的にモノを買うことだってある。
食MAPから浮かび上がるのは、同じモノでも、食べる人が違い、場面が違い、食べ方が違うというコトだ。あるいは、家庭でチーズが消費されるのは、夕食の場合が4割、朝食の場合が5割といった、今までメーカーや小売が知らなかったような事実だ。
シングルス食MAPを見ると、「1人暮らし=コンビニ・お惣菜・外食」という図式もまったくの間違いだとわかる。1人暮らしの中には高齢者もいる。働く女性は健康にとても気を使っている。彼ら彼女らは意識と環境のギャップの間で苦しみ、食の問題解決を求めている。
要するに、供給側が商品に込める「提供価値」と、消費者が商品から得る「認知価値」は必ずしも一致していない。裏返せば、未知のマーケットはすでにあるということだ。
跳ぶ百姓、しゃべる野菜
今後は顧客にとっての価値も次の段階へと進化していく。次なる価値のキーワードは「かかわり合い」や「つながり」だろう。人とのかかわり合い、人とのつながりを実感できるような商品やサービスが注目されていく。
そこで私たちは、マンパワー・ロジスティクス(人が見える物流管理)を実現したいと考えている。私たちがもつ消費者情報を産地に理解してもらい、モノに翻訳する。そして、本当のニーズに合った農産物を適期、適所に届ける。加工メーカーと協力して、商品開発にも活かしたい。
このようなビジネスを大手企業が大量生産・大量流通の発想でやろうとしても、限界がある。むしろ最も可能性を秘めているのは産地だと思う。生産者が自ら、いかに売るかを考え始めたら、隠れたマーケットは見えてくる。百姓が跳躍し、野菜がしゃべり出す。そんなコンセプトが消費者に支持される環境はもう整っている。
(インタビュー・まとめ 秋山基)
齋藤 隆(さいとう たかし)
1948年香川県生まれ。東京工業大学卒。㈱日本リサーチセンターなどをへてNTTデータ通信(株)(現(株)NTTデータ)入社。「食MAP」システムの開発に携わり、2001年から現職。著書に『食品市場の創造』(東急エージェンシー)、『ニッポンの食卓の新・常識』(日経BP社)などがある。http://www.nttd-lism.com/
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