農業技術 | 乾田直播による水田経営革新 | ||
Vol.17 直播栽培を後押しするもの | 農業経営者7月号 | (2007/07/01)
不耕起V溝直播栽培が愛知県で普及する4つの理由
前回紹介したように、愛知県農業総合試験場が開発した不耕起V溝直播栽培が順調に普及し、この方式による栽培面積が毎年増加している。1995年に3.5haだった作付面積は、2006年には実に1096haにまで拡大しているのだ。その主な理由は、次の4つと考えられる。
(1)収量の安定
計算値であるが、10aあたりの播種量を6㎏とし、1m²あたりの苗立ち数100~150本、分ケツ3~4本の場合、穂数は約500本。1穂あたり平均60粒の着粒数が確保され、85%の登熟歩合として、2万5500粒の整粒となる。千粒重が21gであれば、10aあたり535㎏の玄米が収穫できることになる。 控えめな数字を使っているが、直播栽培のイネの千粒重は重く、登熟歩合も高いことは各地で証明されている。種子が地中5cmに播かれ、そこから発芽してくるため、土の中でしっかりと茎が支えられていることも特徴である。しかしそれが一粒の種子から分ケツを少なくしているともいえ、苗立ち数の確保が必要である。また土が固く、収穫直前まで水の入っている状態でもコンバイン作業が行なえるため、中干しは不要である。水管理の作業時間短縮と同時に、中干しによってイネの根を切ることもなく、順調な生育が期待できる。根が深いところで生きているため、土中の養分を収穫時まで吸い上げており、結果として千粒重の重い粒になり反収を上げている。
(2)作業の省力化
愛知県農業総合試験場の資料によれば、移植栽培と不耕起V溝直播栽培の労働時間を、それぞれ最も省力化された体系で比較した場合、前者では10aあたり10時間、後者では6時間と、4割もの省力化が可能であるという。短縮された労働時間のほとんどが、育苗と移植にかかるものである。苗箱の運搬などきつい労働の省略は、不耕起V溝直播栽培の普及において、数字以上に大きな意味を持つ。(3)生産コストの低減
全体としての生産コストは、移植栽培と比較して約10%減少する。労働費が減少し、単位面積あたりの農機具費も小さくなるが、農薬費は上昇している。また元肥のみの施肥体系が確立され、追肥作業はなくなったものの、従来の安価な肥料を使用した場合と比較して、肥料コストは減少していない。 ただし追肥作業に費やしていた時間を、ほかの作物の労働に配分できるなど、経営全体として考えた時の間接的な効果は大きい。実質的な生産コストがどれだけ低減できるかとの問いについては、それぞれの経営ごとに答えは違ってくるといえる。田植機と播種機の価格比較、それぞれの作業効率から、面積あたりの機械コストが計算されるが、現実的には、耕作面積のすべてを移植栽培から一気にV溝直播に変更する例はほとんどない。つまり従来の移植栽培に新たなV溝栽培が加わるため、経営内部で本来のコスト低減効果が明確に表れていないのである。
代かきは前作の収穫後から播種までの間に行なえばよく、作業の分散によって作付面積を拡大することが可能である。その分、トラクタやコンバインといった、栽培様式に関係なく使用する農業機械の償却費負担が小さくなる。
また、播種機の性能も高いことから、1台あたりの作業面積は現状平均の数倍可能であり、それがさらなる機械費のコストダウンにつながる。幸い播種可能な期間が非常に長いのが、不耕起V溝直播栽培の特徴でもある。播種作業の受委託や機械のレンタルなど、効率よい利用が期待される。
(4)地域の取り組み
用水と排水の利用は、栽培方式の変化に対応するのが非常に困難である。特に乾田直播栽培の絶対条件は、水田の土が乾くことにある。しかし移植栽培では水がすべてである。この矛盾については、まとまった区画で水田を使用すること以外に現状での解決策はない。水路にそって乾田直播栽培用の水田と、移植栽培用の水田を区別することで、本来の栽培様式の特徴を発揮することが可能になる。しかし現実は、それぞれの水田の所有が入り組み、各生産者の意思で栽培が行なわれている。まとまった面積で作業を行なうことが、最も効率よい直播栽培の環境といえるが、これは各地の農業経営者が抱える共通の悩みでもあろう。
愛知県が日本農業の先進地であり、モデルたる由縁は、この問題に早くから取り組んできたことにもある。肥沃な土地と温暖な気候から作物の生産が盛んな地方であり、周辺には豊かな消費地も控えている。農業経営の立地として恵まれていることは事実である。
効率よい栽培のため、土地利用の集積や用排水への設備投資など、生産基盤の整備を長期的視野に立って進めてきた行政、そして地権者の意識の高さが、今日の経営の基礎を作っている。人づくりのための教育システムと、その中から輩出される優秀なリーダーが、地域をまとめ、先導する役割を果たす。それは愛知県周辺の何百年来の歴史が物語っている。
■ 参考文献
愛知県農業総合試験場『不耕起V溝直播栽培の手引き』
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