農業技術 | 乾田直播による水田経営革新 | ||
Vol.19 順調に作付けが進んだ
2007年のカリフォルニア | 農業経営者9月号 | (2007/09/01)
新型機械も導入し計400haを作付け
2月に日本を訪問したカリフォルニアの生産者たちが、今年も本格的に乾田直播栽培に取り組んでいる。
土が固くなって芽が出ないのではないかと心配したが、待つこと1週間、連絡を受けて見に行くと、イネの芽が出始めていた。さらに数日後には、地表にスジ状のヒビが現れ、そこから芽がはっきり見えるようになった。水入れから30日後には多すぎる苗立ちが確認され、除草剤の散布作業を行なっていた。
5月上旬、今度は「新型播種機で種播きを始めたから見にこないか?」との連絡を受けて、すぐに圃場に出かけてみた。新型機とは、ヨーロッパから輸入した巨大なバキュームシーダー(真空吸引方式の播種機)である。種子をメーカー指定の代理店に送り、機械の性能と調整方法を確認し、目的とする点播ができることをメーカーと確認してからの導入であった。価格は1000万円を超えている。
播種後に確認すると、1カ所に3〜4粒、深さ1〜2�に正確に播かれていた。しかし、1枚60haの圃場の2割程度まできた時、どうにもスピードが上がらずに、本格的な調整作業を行なうことになった。購入した本人は「なぜもっと早く作業できないのか?」と不満そう。播種機は本来、トラクタの速度に合わせて作動するが、どうやらそれがうまくいっていないようだ。
メーカーと販売店から駆けつけたスタッフが、プレッシャーの中、懸命の調整を実施。原因を突き止めて改善策を施した結果、非常に速いスピードで播種作業が行なえるようになった。播種量は10aあたり3・5〜4�である。水を入れてから30日後、きれいに苗立ちしているのが確認された。
ほかにも一般的な穀物の播種機(グレートプレーン)を使った乾田直播もあり、グループ内で合計約400haの作付けとなった。ここまで一気に増やすとは思っていなかったが、技術の理論的な裏づけに確信を持った上での行動である。
今年は3月から降雨が非常に少なく、早めに水田の耕起作業を始められた。4月に入っても少雨状態は続き、各種作業が計画通りに進んだ。播種後の気温も高く、一気に発芽苗立ちが進むという、非常に恵まれた条件でのスタートとなった。
すばやい対応で改善策を実践
乾田直播栽培は、水管理や除草剤の使い方が湛水直播とは異なるため、生産者も神経を使って、頻繁に圃場に足を運ぶ場合が多い。
水田でイネを見ながら話をしていると、いくつかの反省点を挙げていたが、やはり水田面の均平は重要なポイントのようだ。浅水にして分ケツの促進を図っているため、水田の高低差が歴然なのである。来年はレベラーをしっかりかけてから播種しようと話していた。
追肥についても状況を見ながら後半に窒素を多くするため、飛行機で散布する回数が従来より多くなる可能性もある。
「今年の秋までに自分で飛行機が買えるかもしれないな」と、冗談を言いながら追肥計画を一緒に立てているところである。
倒伏対策が成功することで、乾田直播栽培の価値は認められる。カリフォルニアでの日本品種栽培の課題である未熟米の発生割合や千粒重など、収穫後に判明する項目についても結果が楽しみである。
昨年の場合、イネは倒伏せずに遅くまで立っており、刈り取りは非常に楽に行なえた。くず米や胴割れの発生も少なく、非常に品質の高いコメになった。しかし収量が思ったより低かったのは、苗立ち数が不足したことと、追肥窒素量が足りなかったことが原因と思われる。
今年はこの点も改善し、苗立ちと分ケツの確保が期待通り進んでいる。あとは後半窒素追肥を行なうタイミングと量を判断するために水田を見て回ることになる。
前年の反省から改善策を検討し、可能性のある技術を学ぶ。そして必要な機械を導入し、すぐに実践する。対応の早い経営者である。カリフォルニアの稲作経営者が、すべてこのようなタイプとは言えないが、少なくともコメ作りを仕事として継続していく意志を持った経営者はいる。
当たり前だが、新しい技術の導入には、投資が必要となりリスクも伴う。だが、このリスクを大きなリターンに変えることができるのも、実際にリスクを負う者だけである。資本主義経済の中の農業経営である。今年のカリフォルニアの稲作経営者たちの行動に、この原則を再認識させられた。私も優れた農業経営者の中で、悩みながらも一緒に仕事ができる幸せを実感している。
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