農業技術 | 乾田直播による水田経営革新 | ||
Vol.20 北海道の直播栽培 その1 | 農業経営者10月号 | (2007/10/01)
まず、秋田県大潟村で高品質高収量を実現している矢久保英吾氏を取り上げた。また、愛知県農業総合試験場が開発して順調に普及し、現在は北陸でも取り組みが始まった冬季代かきV溝直播栽培も、有望な技術として紹介した。
乾田直播栽培の弱点?共通する問題点とは
矢久保方式の直播栽培とV溝直播栽培には、共通した問題点がある。それは播種期の天候に影響されやすいことである。
直播栽培のイネは、移植栽培よりも本田での生育期間が長い。春の気温と土壌水分の影響から、発芽と苗立ちに時間がかかり、収穫まで移植栽培より3~10日ほど多い日数を必要とする。
したがって、各地の気候や品種によって、播種限界日が決まってしまうのである。さらに乾田直播栽培は、播種までに本田を乾かす必要もある。
これらの理由により、春の遅い地方では、天候によって作業の可否が決められてしまう。特に東北・北陸・北海道などの春の気温上昇が遅い地方では、毎年この点を心配しながら作業をすることになる。東北地方でも太平洋側の比較的温暖、あるいは乾燥している地方では大きな問題にならないが、積雪する地方では雪解けのタイミングが作業全体に大きな影響を及ぼしている。
北海道における直播栽培の歴史と現状
そこで今回は独立行政法人北海道農業研究センター(以下、同センター)内、北海道水田輪作研究チーム長の大下泰生氏を訪ね、北海道における直播栽培の実態をうかがうことにした。
北海道の直播栽培の歴史は、非常に古い。雑草問題など解決困難な点もあり、近年は移植栽培が全道の基本技術となっているが、実は明治時代後半から湛水直播技術が普及した経緯がある。昭和初期には、北海道の全稲作面積の8割以上が、湛水直播栽培によるものだったと言われている。種子に芒がない品種の発見や、「タコ足直播機」の開発も、普及を後押ししたようである。
その後、畑苗代技術の開発、そして田植え機の利用を前提とした育苗技術へと変化し、現在の移植栽培中心の稲作に至っている。
今回紹介する直播技術は、同センターが開発したものである。「乾田直播早期湛水栽培」として、約20年前の1986年から、公式に普及が始まっている。同センター発行の資料をもとに、その基本技術を紹介しておこう。
●耕起
チゼルプラウによる耕起作業を行なう。雪解け後の土を乾かすには、チゼル耕起がもっとも効果的である。できるだけ早く次の作業に取りかかるために、不可欠な作業である。
●圃場の均平
レーザーレベリングは、本田を均平する上で必要不可欠である。目標高低差は±2・5㎝。低い場所では水が深く残り、発芽・苗立ちの不良を起こす。高い場所では除草剤の効果が期待できず、雑草対策に苦労し、経費をかけても減収もありえる。
●給排水
土を乾かし、播種作業を円滑にするために、作溝機で明渠を設置する。この溝は給水用としても機能し、播種後に速やかにかん水する際にも効果を発揮する。
●播種
同センター開発の「浅耕マルチシーダー」を使って、播種作業を行なう。耕転部は逆転ロータリー方式で砕土、浅く細かい土を作りながらも、土の中は粗い部分を残し、イネの生育に理想的な状態を作っている。ロータリーシーダーに組んである側条施肥機によって、種子の傍らに一定の深さで肥料を置いていく。これにより初期成育が促進される。
●鎮圧
播種後の田面をケンブリッジローラーで鎮圧する。種子と土を密着させるだけでなく、漏水防止の意味もある。
●播種後のかん水
平均気温が12℃以上になったら、水田に浅く水を入れる。発芽が揃うまでは浅水を維持する。
成功の鍵を握るレべリングと鎮圧
レベリングと鎮圧が大きなポイントになっている。大潟村の矢久保氏もレベリングがいかに大切な技術であるか理解し、実践してきた。愛知のV溝方式では、冬季の代かきによって均平作業を行なっている。広い水田ではレベラーを使用し、整地代かきを行なう。
北海道では気温の上昇に時間がかかるため、水の保温効果を利用している。播種後の水田に薄く水を入れることで、日中に上昇した地温を夜間まで保ち、発芽・苗立ちに役立てている。このとき、水がいかに浅く均平に田面を覆うかが、初期成育の大きな分かれ目となる。
多めの播種量で苗立ちを確保
北海道では分ケツ期の気温も低いことから、苗立ちを多く確保する必要がある。平米あたり200本の苗立ちを目標としている。
そのため、播種量は10aあたり11㎏。大潟村の矢久保農場では10aあたり3.5㎏、愛知のV溝方式では同5~8㎏であるから、やや多めの播種量といえるだろう。
種子も発芽処理したものを使用することを基本としている。移植用の苗作りの場合と同じように、種子を選別、消毒、浸種し、ハト胸状態までにする。芽や根が出てしまうと、播種時に切ってしまう恐れがある。 さらに、より確実な発芽を得るために、種子に酸素供給剤のコーティングを行なっている。ただ、水田でいくつかの条件が整えば、発芽に必要な酸素は供給され、目標の発芽・苗立ちが得られるため、最近はコーティングせずに播種するケースも多くなっているようである。
均平技術の向上や鎮圧作業で播種床の環境が改善されたことが、発芽障害が減った要因になっているとも考えられる。
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