農業技術 | 乾田直播による水田経営革新 | ||
Vol.21 北海道の直播栽培 その2 | 農業経営者 11月号 | (2007/11/01)
北海道農業研究センターの大下泰生氏のご案内をいただき、直播栽培に長年取り組んできJA美唄を訪問した。組合長の林晃氏からJA管内農業の概要説明を受け、営農技術主幹の粟崎弘利氏から、直播栽培への具体的な取り組みについてうかがった。粟崎氏は長年にわたり北海道農業研究センターで乾田直播技術の開発に携わっており、現在はJA美唄で乾田播種早期湛水栽培の普及も含めた生産技術指導をされている。
基本作業の実行で確実な成果を得る
美唄市で20haの稲作を行なっている山口勝利氏の圃場を見せていただいた。直播イネは写真のように非常によくできていた。充分な苗立ちがあったとみえ、幼穂形成期に入ったイネは、目標以上の穂数を確保できそうであった。圃場は泥炭土であり、圃場整備を行なって日が浅いこともあって、まだ土が落ち着いていない。そのため毎年レベラーで均平作業を行なっており、播種深度を一定にすることが可能となっている。播種後の保温のためのかん水も、すばやく入れることができ、なおかつ均一の深さに保つこともできる。圃場の均平作業が直播栽培の基本であり、丁寧な作業の結果、期待通りにイネの穂数が確保できていた。
高性能圃場整備がなされた水田には、地下かん排水設備も入っており、地下水位の管理も簡単にできるようになっている。播種後の地温確保のために水を使う乾田播種早期湛水栽培には、最適の条件を整えている。除草剤の使用など、さらに改善すべき課題もあるとの見解であったが、反収、そして生産コストも、目標に近い実績を残している。
特に印象深かったのは、山口氏の奥様のコメントである。
「育苗や移植時の運搬など、苗にかかわる作業がないので、非常に楽に春作業ができて助かっている」 ご夫婦は今年、5haで直播栽培に取り組まれていた。今後は乾田直播の栽培面積が増加すると強く感じた。
輪作体系における乾田直播栽培
美唄市では全耕地に対する水稲作付面積は約50%で、残りの面積には大豆やトウモロコシなどが作付されている。大豆、小麦と稲作の輪作システムの確立も、将来の北海道の農業を担う技術として、重要な位置づけにあるとのことである。
特に大豆作後のイネは、高タンパク米など品質低下が課題となっている。JA美唄も売れるコメづくりの一環として、低タンパク米の生産を目標に掲げている。したがって肥料費を抑えながらも高反収が期待できる、大豆と乾田直播イネの輪作が、販売対策上成り立たない現状もある。
このような課題も、土中窒素の管理技術や、輪作の組み合わせの改善など、生産技術での対応と同時に販売上の対策も検討されれば、解決されると期待している。
乾田直播に取り組むためのマニュアル『夢の米づくり』
『夢の米づくり』と題した小冊子をいただいた。06年4月に美唄市水稲直播研究会から発行された、乾田播種早期湛水栽培のマニュアルである。技術マニュアルであると同時に、この栽培方法が経営上いかに有益であるかまで詳細に記載されている。
具体的には直播栽培のメリット、成功の秘訣、巻末には失敗例も掲載して、生産者がどのような考え方で取り組めば成功するかまで示してあり、コメ生産者にとって非常に参考になる冊子である。コメづくりの将来像も見据え、その対応策としての直播栽培技術として位置づけているところが素晴らしいところである。
いくつかの例を「夢の米づくり」から紹介させていただく。
(1)左に示すのは、移植栽培との生産コストの比較である。10aあたりの生産コスト、そして労働費の大きな減少によって、所得率が大きく上昇している。
(2)直播栽培の具体的な導入パターンを示したシミュレーションも、大変参考になる。大規模経営モデルでの、水稲、秋小麦、大豆それぞれの栽培面積から、労働時間から見た直播栽培の導入可能性を表している。そして直播栽培を取り入れた場合の経営を評価し、その収益を試算している。
現状の経営内容から、すぐに大規模経営に拡大できるケースは少ないと思われるが、目標として、あるいは通過点の数字として参考になる。
(3)作業手順を解説する栽培カレンダーと、播種から刈り取りまでイネの生育経過を追った写真が収録されている。直播イネの理想的な姿を見せており、それぞれのイネの写真と比較しながら現状を確認し、その後の対策に役立てられる。また生育ステージごとの、窒素濃度・スパッド値(葉色)・目標係数の目安が示されている。栽培のポイントも基本の再認識のため、簡潔にまとめられている。
「夢の米づくり」に関する問い合わせは、美唄市水稲直播研究会(電話0126-63-0526)まで。
cheapest generic viagra