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食卓に美しさを、台所に楽しさを | 農業経営者 3月号 | (2008/03/01)
【(株)ひめこカンパニー 代表取締役 フードビジネスマルチプロデューサー 山下智子】
当社は外食業者や食品メーカーに対して、消費者の心をつかむコンセプト、商品開発、メニューの提案を行なっている。依頼を受けることも多く、食品メーカーから「この工場の今使ってないこのレーンで、作ることができる商品を開発してほしい」といったようなケースもある。そこには消費者に対する視点はない。どうしてこのような商品開発をするのだろうか。メーカーの視線が流通業だけに向けられてきたからではないか。加えてメーカーで決定権を握る上層部も、消費者、特に主婦の心理をよく理解してない男性が中心になっている。このような消費者不在のプロダクトアウトをしてきたツケが食品業界全体に回ってきているように思う。
本質とは“美しさ”
たしかに、消費者は安い方の商品を買う傾向がある。しかし、ある果実飲料に関する調査でわかったことだが、女性は自分が飲むためには安価な銘柄を選ぶ時期があっても、主婦として家族を持つようになると、少々割高でもブランド力と本質的価値を有する銘柄を選ぶ傾向が強くなる。そう考えると、いかに本質を伝えるかということの方が重要ではないか。そして、その本質とは“美しさ”と言い換えてもいいものだろう。
野菜でいうと、たとえば糖度の高いトマトのように、甘みのある野菜がもてはやされる傾向があるが、幼稚化した味覚に迎合して野菜がフルーツ化する必要はない。むしろ匂いやみずみずしさ、苦みまでも含めて「本来の持ち味はこれだ」と伝えるべきだ。そう考えると、素材の本当のおいしさを知っている農家は、野菜の美学を追求した生産に励むとともに、本物の味を消費者に伝える責務があるように思う。また、消費者自身もそういった情報を求めていることに気付いた方がいい。
食をエンターテインメントに
消費者に伝えるためには演出も大切なことを忘れてはならない。これは小売業側の責任だが、スーパーに行っても、どの店も照明や見せ方が同じで、気分を高揚させるものがない。野菜は勢いや新鮮味が感じられず、死んでるように見える。その点、欧米のスーパーは選んでいて楽しい雰囲気だし、「このダイコンならサラダにしよう、煮物にしよう」とアイデアが浮かぶ。主婦にとって面倒な献立を考える作業が苦痛でなくなる。
こうした環境が整えば、主婦は家事を労働ととらえず、食というエンターテインメントを演出する気分になれる。いわば料理する主婦が演出家で、主役から脇役まで揃った野菜は役者。役者を提供する農家は養成所のようなものだ。主婦がときめきを忘れないで家事に励めるような魅力的な役者を育ててほしい。
(まとめ 鈴木工)
山下智子(やました ともこ)
静岡県生まれ。加工食品や飲料などのNB商品の開発および販売促進企画、CVS商品や惣菜などの中食の開発や業態開発、ファミリーレストランなど外食業全般のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り、売り場開発、商品開発等、食業界および流通業界全般にわたり幅広く活動。食業界の今がわかる「食のトレンド情報」を毎週配信。http://www.himeko.co.jp/