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提言 | 視点

世界とのかかわりの中で | 農業経営者 4月号 |  (2008/04/01)

【宮城大学食産業学部 フードビジネス学科 教授 三石誠司】
視点 日本の自動車メーカーの経営者は「10年後、よその国で自社の車を走らせたい」といった構想を持って企業活動を営んでいるものである。一方、農業界はどうか。5年後、10年後のビジョンを描いている経営者はどれだけいるだろう。ただ日常の仕事を繰り返しているだけではないか。経営者の役割は、未来のあるべき姿に向かって歩むことだと忘れていないか。
人間は現在の資源をベースにして、予測可能な将来のみを考える傾向が強い。しかしそんな姿勢では現状を延長したビジョンしか浮かべられない。だから先に“未来の姿”を見据え、次に現実と理想の間のギャップを埋めるには、どうすればいいかという思考パターンで行動することが肝要である。組織や経営者に望まれるのは、責務を担う意識を持ちながら、10年先、20年先の将来を展望すること。こうした意識がないと仕事に取り組む迫力に欠けるだけでなく、実際の達成度も大きく異なってくる。「観察」ではなく「実践」する立場に立ってほしい。

勝ち逃げは許されない



現在、中国、インドに代表されるような経済成長国は「より成長したい。より豊かになりたい」という気持ちを強く持っている。文字通りハングリー精神にあふれる国と同じ土俵で、ガチンコ競争をしたら、日本は負けるのではないかという危惧を持っている。では、どうすればいいのか。

農業でいえば、今後、日本の農業が独立して単体でやっていくのはほぼ不可能である。鎖国して小さいコミュニティーを作るというような方法もある。しかし、それは競争社会の現実から逃げ出すことにほかならない。ひとりで勝ち逃げしたとしても、その程度の勝ちに意味はない。「自分たちは別だ」と引きこもるのではなく、むしろ他者と一緒になって成果を共有する手法を取るべきであろう。相互依存性——つまり世界とかかわりあう中で日本の農業経営者は何ができるかを真剣に考えない限り、成長は望めない。

問題を突破できるのは技術



その手段としては“made by japanese”がありうる。土地が限られ、人口が縮小していく中で、問題を突破できるのはアメリカ型のような単純な大規模化よりも、発想法であり技術であろう。日本車が世界各国で売れるように、農業の世界でも効率性や安全性に配慮したものを日本発でしっかり作れば、世界に普及していく。作物を輸入するにしても、その種子自体が日本で開発されたものであれば、国内の消費者はうれしいし、生産者も自信が持てる。農業技術をテコにすることで、日本と他国は新たな関係を築き上げ、日本農業はもう一段上の発展を迎えることになろう。
(まとめ 鈴木工)
三石誠司(みついし せいじ)
1960年東京都生まれ。84年東京外国語大学外国語学部卒業後、全国農業協同組合連合会入会。飼料穀物輸入業務や米国駐在に携わる。その後、米国・ハーバード・ビジネススクール、筑波大学大学院を経て、2006年より現職。近著に『アグリビジネスにおける集中と環境』(清水弘文堂書房)等がある。
Posted by 編集部 11:30

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