新・農業経営者ルポ | ||
家族でできるからこその農業 | 農業経営者 1月号 | (2009/01/01)
地元にある4店舗の大規模量販店に「いちごやさんのイチゴ」という ポップ入りの販売コーナーを与えられ、そこに日配で朝取りイチゴを出荷する。
摘み取り園を兼ねる直売所という経営スタイルの実現は、13台のイチゴの自動販売機が始まりだった。
消費者の喜ぶ顔を見るために完熟イチゴを地元に提供
「お目にかかってお話しするのは良いけど、私なんか取り上げるに足りる存在ですか?」
少し照れ臭そうに筆者を迎えた佐野光司(59歳)の顔には、その人柄がそのまま表れていた。実直で控えめで、ひたすらにイチゴ作りに打ち込んできた佐野。自然体で農業に取り組むことで、いつの間にか農協のなかでも最大規模の生産者となり、農協のイチゴ部会会長になっていた。
しかし、そんな佐野も市内各所に置いた自動販売機での直売が伸びていき、さらに地元量販店からの誘いをきっかけにして農協出荷を止めてしまった。農協に出荷するイチゴがなくなってしまったと言ったほうが正しいほど、お客さんの支持があったのだ。
農協出荷に対する不満はあっても、現実に農協出荷を止めるという結論を出すまでには、夜も眠れなくなるほど悩んだ。
そして、現在の佐野は、静岡県の富士宮市で同市内外の量販店や生協への出荷に加え、農園併設の直売所での販売とイチゴ狩りのハウスを経営している。最大13台まで増やした自動販売機も今年からは廃止した。現在の生産ハウスは、地床ハウス52a、高設のハウス20aの計72a。イチゴの食味は地床が勝ると考える佐野は、食味の良さを重視する販売用には地床のハウスを使う。一方、摘み取りの観光果樹園は、冬の寒いなかでイチゴの香りと摘み取りの楽しさを楽しんでもらうためのもの。そのためには高設栽培にすべきだし、車椅子でも入れるようにと畝間も広く取っている。
量販店や生協へは、決済こそ市場業者を通すが、朝取りにした完熟のイチゴを佐野が直接納品する。各店舗には「(有)いちごやさんの朝取りイチゴ」であることが写真と共に示されている。
完熟にして出荷するため、棚に置ける時間は限られるし、過熟になればお客さんからのクレームも出る。しかも、スーパーの営業日に合わせて年末年始も毎日出荷せねばならない。しかし、だからこそお客さんの満足度は極めて高いのだ。
さらに、量販店の棚のポップを見たお客さんが摘み取り園に来てくれる。佐野の摘み取り農園や直売所経営にとっては願ってもないことだ。それはお客さんや量販店にとっても価値がある。店にとっては佐野のイチゴ作りだけでなく、佐野という農家やハウスのことをお客さんに知ってもらうことで商品への安心を伝えることにつながる。さらに、お客さんにとっては売り場の棚を通してイチゴの摘み取りという楽しみまで体験できるのだ。お店の棚がイチゴに関するモノとしての情報だけでなく、摘み取り体験というコトの情報までも提供しているというわけだ。
生産者と小売業者が協力することで、産地ならではの最高のイチゴをより多くのお客さんに楽しんでもらうことが実現した。佐野が地元出荷にこだわるのはハウス内で完熟させたイチゴを一刻も早くお客さんに食べてもらいたいから。そして、お客さんの喜ぶ顔を実感したいからだ。収益性もさることながら、それこそが農協まかせの出荷では受けることのなかった生産者としての感激なのである。
(以下つづく)
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