稲作経営を抜本から変える革新技術として注目される乾田直播。海外マーケットへの進出の鍵さえも握るこの技術は、稲作経営に携る者にとって、無視できない存在になりつつある。試験場での研究のみならず、現場の農業経営者と一体となって技術開発に取り組む東北農業研究センターの大谷隆二氏が、実践的な乾田直播技術をシリーズでお伝えする。
日本国内における直播栽培の現状
現在、直播栽培による水稲の作付面積は10年前の約2倍に増え、2005年には国内の全水稲作付面積の1%を越えた。湛水直播と乾田直播の面積比率は約2対3で、湛水直播は北陸・東北地域で増加傾向にあり、乾田直播は東海地域で増加している。
普及拡大の技術的な要因は、湛水直播では落水出芽法による苗立ちの安定化、条播機・点播機の開発であり、乾田直播では愛知県で開発された不耕起乾田直播機が特筆される。また近年では、直播栽培は高温登熟を回避するための危険分散の手段としても注目されている。
直播栽培の経営的なメリットは、大規模経営での作期分散や、削減した労働時間を野菜作に回すなどの経営全体での導入効果である。(以下つづく)
大谷隆二(おおたに りゅうじ)
1961年山口県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。北海道農業試験場で『草地飼料作および水稲作の機械化に関する研究』、農業研究センターで『水稲の低コスト栽培および乾燥調製に関する研究』に従事。1997年岡山大学より学位授与(農学博士)され、1998年に『無代かき直播栽培に関する研究』で農業機械学会技術奨励賞受賞。その後、農林水産省大臣官房で技術調整に関する業務に従事し、2003年に東北農業研究センターに異動。東北水田輪作研究チーム 上席研究員。著書に『北の国の直播』(共著)がある。