自給自足希望者の考えは幼稚だ。国家の自給自足は危うい。社会、日本、世界は相互扶助の精神で成り立っている。最高学歴の文系出身者が役割を発揮していない。未曾有の危機下、理系が活躍する時代がやってきた。
数年来、「自給自足がしたい」と言って、当社に相談や面接に尋ねてくる人が後を絶たない。最近、とみに増えているのが、高学歴の20代、30代の男性だ。
会ってみると、自給自足を目指すのは農業で自律したいからではない。その心根に他人からまったく干渉されないで生活を送りたいという欲望がある。どこかに引きこもって、税金も水道代も払わず暮らせるユートピアとしての自給自足なのである。
理想を熱く語る彼らに私は質問を投げかける。「だれのおかげココまでたどり着いたんだ?」と。一様にポカンとしながらも、正しい解答を頭のなかで探そうとする。でも何もコトバが出てこない。
相互扶助の精神
「納税者と公道のおかげじゃないか。金輪際、道を歩くなよ!」
人は道路を使い、水道水を使い、下水道を使い、医療を使い、電気を使い、電波を使う。これだけ社会インフラのお世話になっているにもかかわらず、何の恥じらいもなくこう公言していることに気づかない。
「ぼくの理想は社会に一切貢献しないことだ」
人が大人になるとは、社会が“相互扶助”で成り立っていることを理解することからはじまるのではないか。彼らの心には幼児性が住み着いたままなのだ。
(以下つづく)
木内博一(きうち ひろかず)
1967年千葉県生まれ。農業者大学校卒業後、90年に就農。96年事業会社㈲和郷を、98年生産組合㈱和郷園を設立。生産・流通事業のほか、リサイクル事業や冷凍工場、カット・パッキングセンター、直営店舗の展開をすすめる。05年海外事業部を立ち上げ、タイでマンゴー、バナナの生産開始。07年日本から香港への輸出事業スタート。現在、ターゲット国を拡大準備中。本連載では、起業わずか10年でグループ売上約50億円の農系企業を築き上げた木内の「和のマネジメントと郷の精神」。本連載ではその“事業ビジョンの本質”を解き明かす。