稲作経営を抜本から変える革新技術として注目される乾田直播。海外マーケットへの進出の鍵さえも握るこの技術は、稲作経営に携る者にとって、無視できない存在になりつつある。試験場での研究のみならず、現場の農業経営者と一体となって技術開発に取り組む東北農業研究センターの大谷隆二氏が、実践的な乾田直播技術をシリーズでお伝えする。
無代かき栽培に対応した管理技術が必要
乾田直播の雑草対策および肥培管理は、代かきを行なわないため、湛水直播などの代かきする栽培法とは異なった対応が必要である。
寒冷地の乾田直播では、出芽までの畑期間が長くなるため雑草の発生量が多めとなり、防除回数も増加する傾向がある。また、イネの出芽時にはノビエの葉齢はイネに対して2〜3葉進んでいることが多い。このため、現在登録のある一発処理剤だけで十分な防除効果を得ることは難しく、ノビエ5葉期まで効果のある茎葉処理剤を組み合わせた体系防除が必要となる。
肥培管理では、代かきをしないため基肥に施用した窒素肥料は脱窒・流亡しやすく、従来の施肥体系では窒素吸収量が不足する。そのため、深耕や堆肥投入などの「土作り」が重要であるが、現実には十分な堆肥投入は難しい状況にあり、その代替技術として緩行性肥料の活用がある。さらに、代かき栽培法に比べ、地力窒素の発現が遅れるため、寒冷地では初期生育確保の上から、苗立ち数に応じた初期の肥培管理が重要である。
(以下つづく)
大谷隆二(おおたに りゅうじ)
1961年山口県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。北海道農業試験場で『草地飼料作および水稲作の機械化に関する研究』、農業研究センターで『水稲の低コスト栽培および乾燥調製に関する研究』に従事。1997年岡山大学より学位授与(農学博士)され、1998年に『無代かき直播栽培に関する研究』で農業機械学会技術奨励賞受賞。その後、農林水産省大臣官房で技術調整に関する業務に従事し、2003年に東北農業研究センターに異動。東北水田輪作研究チーム 上席研究員。著書に『北の国の直播』(共著)がある。