地域社会の維持及び活性化は、保証できる可能性なし
民主党が農家に約束する戸別所得補償制度。自民党・杉浦正健代議士が「民主党のマニフェストは毛針」とこき下ろせば、民主党副代表の前原誠司副代表も「ばらまきだという批判があるが、私もそういう気持ちが強い」と内部からも批判の声が。
参院選の大勝後の昨年10月、参議院に「農業者戸別所得補償法案」を可決したが、衆議院はこの5月に否決した。「食料自給率の向上並びに地域社会の維持及び活性化」(法案第1条)と説明するが、どこをどうみても過去のバラマキ農政を復活させただけ。「食料自給率の向上」につながらないばかりか、「地域社会の維持及び活性化」には絶対につながらないと指摘しておきたい。
この9月には、総選挙に向けて農林水産政策大綱、別称「農山漁村6次産業化ビジョン」を公表した。次いで10月には、これを漫画にした号外ビラも出している。これで総選挙向けマニフェスト(公約)が出揃ったことになる。
のっけから失礼だが、この別称の「6次産業化」という部分を目にしてプッと吹き出してしまった。本邦農業界で農業補助金取り名人と言えば、もう名前がお分かりだろう。前月号でも取り上げたSさんのことである。そのSさんがよく口にしていたキャッチフレーズである。
6次産業とは、1次産業(生産)×2次産業(加工)×3次産業(物流・生産・販売・交流)の数字をかけ合わせたネーミングのようである。同じような施策として「農商工連携」というものがある。公式解説的には、「地域経済活性化のため、地域の基幹産業である農林水産業と商業・工業等の産業間での連携」だ。その言わんとするところは、双方、プロが条件ではなかろうか。ままごとのような零細規模農を相手にした「農商工連携」では農業の地域の再建もおぼつかない。
そのSさんには、本コラムに何回も登場していただいて恐縮だが、彼の6次産業化の取り組みは、巨額の補助金と旧農林漁業金融公庫(政策公庫)の低利融資を使っただけで、取り組まれた加工事業なり観光農園事業は決して成功したとは言えず、自給率の向上には何の効果もない。
もっと悲惨な例は、6次産業化を夢見て事業のため大借金をして自殺に追い込まれたケースだ。茨城県で軟弱野菜の生産出荷を手がけていた大規模生産者は、誰が入れ知恵したのかどうかは知る由もないが、これまた農林公庫や地元金融機関からの融資で「観光農園」に乗り出したが、ほどなく大失敗して命を絶たれた。
このケースで筆者が総括したのが、所詮、素人があれこれ手を出してみたところで、どれ一つしてプロの領域には達しないではないか。それを昔の人は「餅屋は餅屋」との表現で戒めた。民主党の農業政策を立案する担当者に、ぜひこの言葉の持つ意味をよ〜くご理解いただきたいものである。
(以下つづく)