破産農家を生み出す欠陥“認定農業者制度”
講演先の富山で知人が耳打ちしてくれた、富山県の農業生産法人(有)リーフ(黒部市宇奈月町・滝林純一社長)の破産。原因を調べるうちに、認定農業者制度の欠陥と国の政策に沿った大規模生産者の限界をみた。
まずは社長の滝林さんのプロフィール。富山県稲作経営者協会の前会長にして、日本農業法人協会の会員である。世智に疎い農水省の役人には、ニッポン農業の背骨を担う立派な経営者と映るのだろうが、筆者にすれば、稲経と法人協会メンバーと聞けば、思い出すのが、法人協会最高幹部の、あの一言だ。
「稲経や法人協会のメンバーの8割は赤字スレスレだよ」
それはそれとして、本人に直接原因を確かめるべく連絡を試みるも、電話はすでに取り外されていた。黒部市役所農業水産課にチェックを入れたら、「1月29日のことですが、滝林社長がやってきて、突然、裁判所に破産の手続きをしてきたと告げるだけで、詳しい説明は聞けませんでした。どうして破産に至ったのか、こちらも分かりません」(農政係担当者)という返答が戻ってきた。
滝林さんは、認定農業者でもある。担当者に「この馬鹿者!」と怒鳴りつけてやろうと思ったが、やめてしまった。先刻承知かと思うが、認定農業者制度は、農業者が農業経営改善計画を策定し、市町村がそれを認定し、認定後も計画の実施状況をチェックする義務がある。
しかも計画が達成できないような状況であれば、市町村は、達成状況を的確に把握し、その要因を分析することで、5年ごとの認定更新に際して、新しく提出された計画に実現性があるかどうかをチェックするというようになっている。市役所がその気になれば、リーフの破産を未然に防ぐことも可能なハズだった。
怒鳴ろうと思ったのは、「ちゃんとチェックしていたら、ある日突然ということにはならなかったのではないか」と言いたかったからである。世にも不思議な「認定農業者」制度。最近は農水省でも少しは疑問を抱くようになったと聞くが、末端現場はこの程度と認識すべきである。
気を取り直して、その担当者に、「経営内容をチェックしていたのかい」と問い質すと、その答えが面白い。
「例えば、計画に、農地を○○ha増やしたとか、トラクターを○台整備したとか、それだけをちゃんとチェックしていました」
この担当者を叱責することはできない。国が市町村に認定農業者をチェックせよと命じたのは、次の4項目であるからだ。
1.経営規模の拡大(もっと経営規模を大きくしたい)
2.生産方式の合理化(農業生産のムダを省きたい)
3.経営管理の合理化(コスト管理をしっかりしたい)
4.農業従事の態様の改善(労働時間を少なくしたい)
筆者流に解説を加えれば、「経営規模の拡大」とは、面積の拡大を最優先に、施設・機械類を野放図に整備することを指し、結果として過剰投資を招き、やがて破産に追い込んでいく。
(以下つづく)