本誌創刊号(1993年5月)の「注目機」は(株)諸岡(モロオカ)のゴムクローラトラクタ「KMシリーズ」だった。同機を取り上げたのは以下の理由による。
農業機械化が省力化と効率化をもたらし労働生産性を上げたことは間違いない。しかし、機械走行に伴う土壌踏圧増大の弊害はまだ十分に認識されていなかった。農業技術の本来の目的は、手段として土や作物、あるいは自然の持つ可能性を最大化することである。にもかかわらず、機械化そのものがその可能性を低下させていることに、当時の農業界は鈍感であったのだ。
その意味で、モロオカによるゴムクローラトラクタの開発とその商品化は我が国の農業機械化にとって画期的であり、その取り組みがなければ、現在の改良された国産フルクローラトラクタや、クボタがリードするセミクローラトラクタの登場もあり得なかったと本誌は考える。
そこで、モロオカの技術を継承した国産機種と、ジョンディア、チャレンジャーの海外2大機種を取り上げ、それぞれのユーザー評価を紹介する。加えて、それらすべての機種のヘビーユーザーであるスガノ農機㈱の関係者から聞いた評価をもとに、日本農業におけるフルクローラトラクタの経営的意味を考察する。