水稲作付面積は2004年度で約117万haあるが、その内、直播栽培の面積は約1万4千haに過ぎず、その割合は1%にも満たない。直播には多様な方式があるが、その大部分は代かきを行なう湛水直播栽培だ。
ところで、コメを生産する先進国の中で、移植栽培が前提となっているのは日本だけである。これだけ農業(あるいは稲作農業)の危機が声高に語られ、生産コストの低減が課題とされてきたにもかかわらずだ。
我が国で直播栽培が普及しないのは、技術的な難しさが理由ではない。本当の理由は、わが国の稲作農業経営者たちが真剣にそれに取り組まざるを得ないような、厳しい経営環境に置かれていないからである。しかしそれらの人々に、安楽な場所を保証してきた国家財政とその背景にある農業保護の論理は、すでに破たんしている。
経営方針や圃場条件などにより、移植栽培、湛水直播にはそれぞれ意味があり、それを否定するわけではない。しかし、省力性のみならず、稲作だけに頼らない畑作物生産の可能性を視野に入れる時、乾田直播への取組みこそが、水田農業の技術革新なのである。